今回のコロナのことで、ワクチンのリスク(危険度)や感染のリスクなど様々なリスクについて考えさせられる機会が多くありました。
新型コロナとワクチンについては、さまざまな本や情報があふれていますが、私が特に「感銘」を受けたのは次の本です。
峰宗太郎・山中浩之『新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか』(日経BPマーケティング,2021)
この本はコロナの情報に対してどのように考えて行動するのがいいのかということに重点が置かれています。その中で次のような記載があります。
安全、安心は人によって全然とらえ方が違います。ちょっとでも危険があれば、これは安全じゃないということを言い出す人は、いくらでもいるわけです。
私は「リスクがない」ということはあり得ないと思っています。ゼロリスクがある以上「我々は常にリスクを取って生きている」わけですよ。
AかB、どちらを選ぶかという状況でも「Aはリスクがあって、Bはリスクがないということはない」それぞれ違うリスクを取っているわけですね。現実は常に「リスクAか、リスクBか、それともCか」なんです。
生きることはおしなべてリスクの選択なんですよ。
だから結局のところ、ワクチンを「打つ」リスクがあるし、そして「打たない」リスクもある。打たなければ、感染して入院するリスク、治っても後遺症が残るリスクがある。でも人間はワクチンを「打つ」リスクだけが目に入りがちなんでね」(pp.273-274)
私は皮膚科医です。日々の診療の中で常に「リスク」と「ベネフィット」(例えば、ワクチンを打つと、感染しにくい、感染しても重症化しにくいなど得られる「利益」のこと。医学では「有益性」と表現されます。)を「てんびん」にかけて治療しています。
この患者さんにこの薬を使った場合「どのくらい効果は期待できるのか」逆に「副作用はどれくらい予想されるのか」ということを念頭に置きながら診療しています。
医薬品の添付文書(注意点などが書いてある説明書のようなもの)を見てみます。例えば、アレグラというアレルギーの治療薬の添付文書には次のような記載があります。
ー妊婦、産婦、授乳婦への投与ー
妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。
ものすごく分かりにくい文章です。これを「翻訳」すると次のようになります。
「妊婦さんに投与したときに、奇形児が生まれるという報告はないが、しかし、絶対に安全とは断定できない。したがってよく考えて、投与したほうが、患者さんのためになると思われる場合だけ投与しなさい」
という感じになります。日々こんなことを考えながら診療しています。人生は「リスク」の連続との話でしたが、人生最後の「リスク」は何でしょうか?
たぶん「死」でしょうが、その前にもう一つ「リスク」があります。それは「長生きするリスク」です。例の「老後資金の不足問題」のことです。何歳まで生きられるか分からないですので、難しい問題です。
<リスクの反対語は?>
「リスク」の反対語はなんでしょうか?普通の答えは先ほどの「ベネフィット」かなとも思われます。まだほかにもあるかも知れません。(例えば「安全」)医学生が、必ず習う??反対語は「くすり」です。(「リスク」を後ろから読むと「くすり」になります。)
ジョークみたいですが「薬」は「危険」がいっぱいです。反対語というよりもむしろ「同義語」かも???
<リスクゼロのお話>
患者「先生、私の両親はふたりとも胃がんで亡くなりました。絶対に胃がんにならない方法を教えてく
ださい。」
医者 「それは簡単ですよ。あなたの胃を全部取ってしまえば絶対に胃がんにはなりませんよ。」
患者「?????」
<アンジェリーナ・ジョリー>
先ほどはジョークみたいなお話でしたが、「本当に」「予防切除」した人がいます。
アメリカの女優でアンジェリーナ・ジョリーさんという人です。彼女は遺伝子検査の結果「乳がんになる可能性が非常に高い」と診断されたため、両側の乳腺を切除したのです。まさに「リスク」を減らすために決断されたと思います。