人間が死ぬと,それまで身体を作っていた原子はばらばらになってしまいますが,気体になって飛び散った原子のうち,二酸化炭素になった原子は植物の葉の中に入って,植物の栄養になることもあるでしょう。その植物をほかの人が食べると,それはまた人間の身体に入ることになります。また,死んだ身体が燃えたとき,水蒸気になった原子は,冷えて水になり,また誰かの身体の中に吸収されるかもしれません。こうして世界中の原子は,あちらこちらに移動して「生き返っている」とも言えます。
ある人のレポートにこんな文章がありました。
〈もしも原子が見えたなら〉の授業を受けて,講師の先生が「私たちの体には恐竜の原子が入っている」という話を聞いて,感動した。
さらに「この空気の中に板倉さんの息も入っている」と言われて,みんなで深呼吸した」
今回は,そんな話にまつわる話題です。
[問題1]
板倉さんは,2018年2月7日になくなりました。そのとき「最後の吐息(に吐いた空気)」の一部を今,あなたが吸い込む確率はどのくらいあるでしょう(空気はよく混ざっているとします)。
ア. 全くない(0〜0.001%)
イ. ほとんどない(0.001〜1%)
ウ. ちょっとはある(1〜20%)
エ. もっとある(20%以上)
(1) 一回に吸う(吐く)空気の分子の数は,1×10²²
(くわしく書くと)
一回に吸う空気の量は,0.4Lとする。 アボガドロ数→1モルの分子に6×10²³ 1モルは22.4Lだから,
1L中にある分子の数は 6×10²³÷22.4L×0.4L = 0.1×10²³=1×10²²
(2) 地球全体の分子の数は(『理科年表』によると)10⁴⁴
(3) 大気の中からランダムに分子を1つ選んだとき,それが「板倉の最後の吐息」に含まれない確率は
10⁴⁴ ー 10²²
----------------- = 1ー 10¯²²
10⁴⁴
(4) それが「あなた」の吸う1息に含まれない確率は (1ー 10¯²²)¹⁰²² = 0.37....
(この計算をexcelでやろうとしたが17桁以上は無理だった。e(ネイピア数)を使うと計算できる。知りたい人は猪塚まで)
(5) それが「あなた」の吸う1息に含まれる確率は
1ー0.37 = 0.63 (63%)
[問題2]
板倉さんは火葬されました。その板倉さんの体にいた分子たちが,全部,空気中に飛び出している,とすると,この部屋に「板倉さんの分子」はいるでしょうか。
ア. いる確率は,50%以上
イ. いる確率は,50%以下
ネットを見ると「人間1人の分子数は6 × 10²⁷ 個」です。
これは,明らかに,1回で吸う(吐く)分子数より多いです。ですから,この部屋には,かなりの数の「板倉さんの体にいた原子」がいるはずです。
板倉さんの体にいた分子たちは「科学の碑」の中に入れられた,と聞きます。そこから,空気中に飛び立っていくことでしょう。
「千の風に乗って」
わたしのお墓の前で泣かないでください。
そこにはわたしはいません。眠ってなんかいません。
千の風に 千の風になって
あの大きな空を吹きわたっています。
この部屋にいる「板倉さんの分子」に「何やってんだ」と言われないように,私(たち)門下も,「大衆の御用学者(教師)」の1人として,残りの人生で何か仕事がしていけたら良いと思っています。いかがでしょう。
(典拠)
この話の大元は
1. J.Jeans”an introduction to the kinetic theory of gases(気体運動論入門)"1942
ここでは「シーザーの吐息」になっていて,そこから,いろいろな気体運動に話がすすみます。
2. StevenG.Krantz著,関沢正射訳『問題解決への数学』2001,丸善 ,原著1997 直接は,この2を参考にした。
サイトには「クレオパトラの吐息」というものもある。つまり,家康でも卑弥呼でもだれでもいいのである。