⚫︎お湯の水博士の発明 ー対照実験の重要性ー

 20XX年お湯の水博士は夢のような健康商品の開発に成功しました。それは特殊繊維で作られたスポンジに、博士が独自に開発した薬品を吸着させたものです。これを人間の「シミ」のある部分に毎日10分間そっとなぜてこすることを半年間繰り返したら、なんと「シミ」がすっかり消失したとのことです。博士はこれを商品化して1個1万円で売り出そうと考えました。

 

さてここからが問題です。博士が商品化して発売するためには、さらにある実験をする必要があると思いますが、いったいそれは何でしょうか?

 


 いろいろな実験が必要かもしれませんが、特に私が必要だと思うのは次のような実験です。

 

「100円均一で買ってきたスポンジに何も付けずに「シミ」のあるところに毎日そっとこすっていたら半年後に「シミ」が消えるかどうか?」

 

 という実験です。もしもこの実験で「シミ」が消えたならば、博士の発明した商品が効くのではなくて「そっとこする」という行為が「シミ」に対して効いていたということになると思います。

 このようにある実験X(こする)+Y(薬剤)をしてある結果Z(シミがきえた)が生じたときに本当にYが必要であるというためにはX(こする)だけで実験してみて果たしてZ(シミが消える)が起きるかどうかを見ることが重要となります。このことを科学の世界では「対照」をとるという言葉で表しています。

 世の中のさまざまな「データ」や「実験」には往々にしてこの「対照」を取ってない(うまく「対照」をとれない場合もありますが)ものが見られます。

注意してよく見ないと「だまされる」ことになるかもしれません。

 

⚫︎(実例1)「コロナのワクチン」と対照実験

        ワクチンを含む注射  ワクチンを含まない注射                             有効率

ファイザー    8人/1万8198人        160人/1万8325人              95% 

                             ↳本当なら160人が感染していた(152人は助かった)→152÷160=0.95⤴︎


⚫︎(「対照実験」が認められなかった歴史1:実例2)脚気の実験、「陸軍」vs「海軍」

日清戦争中、脚気患者(病院に入院した)の総数 板倉聖宣(1988)『模倣の時代下」仮説社 p.134

 陸軍  4064人(白米飯)

 海軍    34人(麦飯)

日露戦争中、脚気患者(病院に入院した)の総数 板倉(1988)  p.209

 陸軍 10万4497人(白米飯)

 海軍    105人(麦飯)

⚫︎(実例3) センメルヴェイス 産褥熱(さんじょくねつ)ー「対照実験」が認められなかった歴史2ー

 産褥熱とは、女性が出産後から10日後にかかる病気です。多くの人が死にました。

 センメルヴェイス(1818-1865)は、ウイーンの産科病院の医師でした。彼は1844年、第1産科の研修医助手になります。そして、第1産科の産褥熱の死亡率の高さに驚きます。

 その原因を彼は「医師の手についた微粒子が、解剖室で患者に移されている」と結論づけます。

 1847年に「手洗い消毒」が導入され、死亡率が1.2%まで劇的に減少しました。

 今では、手術のとき「消毒、手袋」は当たり前です。それには、センメルヴェイスの粘り強い活動があったからです。

 

wikipedia「センメルヴェイス・イグナーツ」より

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/センメルヴェイス・イグナーツ