●いろんなタイプの先生がいいのかな        2011.10.15 (2012.1.11改訂)

「先生みたいなお父さんだったらよかった」

 私は2年生に週を1時間だけ教えに行っています。

 保健の先生が「実はこんなことがありました」と話してくれました。

 2 年生のHさんが保健室に毎時間ほど来て話し込むそうです。「学校にいきたくない」「何もおもしろいことがない」「友だちといても楽しいこともない」 母親が家にいないときは「家に帰りたい、帰りたい」という。家で何をやっているかというと,インターネットにのめりこんでいるそうです。

 そんな状態ですから,授業もおもしろいわけがありません。頭の毛を自分で引っ張って,そのためにかなり髪の毛が抜けてきています。そのためずっと授業中も帽子をかぶっています。その原さんが保健室で「笠井先生みたいな お父さんが良かった」というそうです。なぜか。保健の先生によると「とにかくいやだ。ギャーギャー怒るから。それが,いやだ。教師もそんな人が 多い」と言っているとのこと。 

 わたしは,「2年生は穏やかな子どもたちが多く叱る必要もないしね」 「いろいろなタイプの生徒がいるのと同じように,いろいろなタイプの先生 がいたほうが良いでしょ」と。髪の毛を引っ張ってという現象面的なことは 1 年生のころから聞いていましたが,詳しいことは学年も違うし,授業も教えていませんでしたので,そんなことも知りませんでした。 

 

 思わず彼女の感想を探しました。

 ありました。 彼女はちゃんと授業の感想を書いていてくれました。私自身も、その感想を読んでいましたが,普通に「よかったなあ」ぐあいにしか思っていませんでした。ところが,そんな話を聞くとまったくその感想の意味が違ってきます。感想を書いてくれること自体すごいことです。しかも「楽しい」という言葉に私自身びっくりしました。

 保健の先生に,その彼女が授業ではこんな感想文を寄せてくれています。といって,感想を見せました。なるほどという顔をして喜んでくれました。

 

●「病気になりそうです」保健室

 そんな話をしていると,保健の先生が「実はこんなこともありますよ」と言って話を続けられました。Sさんも家庭がかなりしんどくて,保健室に毎時間ほど来て話し込むそうです。授業では普通の女の子って感じで接していました。授業で理由を聞くと理由を言ってくれます。しかし、リストカットを繰り返し,保健室に相談にくる。幼いころに母親が離婚し,大きくなるまでは知らなかった。その 2 人目の父(本当の父親と思っていた)とも離婚をし,現在26歳の若い男の人が家に入り込む。そんな状況で家も母親もいやになっている。やはりやけくそになりかけているんでしょう! リストカットを繰り返すのは「私のほうを向いてよ。私のことも少しは心配してよ」って言っているんでしょう。 母親は振り向いてもくれない。保健の先生なら聞いてくれるのでしゃべることによって彼女は自分の心の平衡を保っているのでしょう。保健の先生も中学生に暗い暗い話を何時間ともなく聞かされて大変みたいです。2 年生だけでそんな子どもたちが3人もいる。「なかなかしんどい学年です」といっておられた。なかなか重い話です。中学校の保健の先生もストレスがたまります。

 その彼女が,授業の感想には次のように書いてくれています。なかなか良い感想です。「実験しないとわからないこともあるんだなあと思った。こういう実験を初めてした人とか今でもやっているいる人は,発想がスゴイと 思う!!」と書いてくれています。「自然ってものにすごく感動しています。 自然って人間みたいに裏切りません」でも,彼女の感想を読んでいると,自然を研究している人間の発想に感心しています。不思議なものです。別に私が彼女たちの話を聞いてあげれるわけでもありません。聞いたって何かできるわけでもありません。でも,感想を読むと,暗くなるよりも「うれしいなあ!」って素直に喜べます。 

 

 もう一人,リストカットを繰り返し,保健室に相談にくる子がいます。この彼女も,感想には次のように書いてくれています。本当にうれしいですね。 いつもはしんどくて辛くても,ほっとする時間があるってことはすばらしい ことです。最初に「もし原」をしたときの彼女の感想です。  

 また,その彼女が2学期間使ってやった〈燃焼〉の授業書でもおじいちゃんの話まで書いてくれています。実は授業書の最後に「灯油の話」がでてくるのですが,授業中は聞いても、だれも反応してくれなくて「だれも知りません」って感じだったのです。そのことを書いてくれています。 

 また,2学期になってからは1年生でも授業に出にくくなって子どもたちがいます。それで,保健の先生は「1人ではもう手に負えない、助けて」と悲鳴をあげています。保健室をのぞくと確かにしんどい子どもたちでいっぱい。 むげに保健室を追い出せない,話を聞く必要のある子どもたち。

 最近はカウンセラーの先生も保健室に常駐してもらっているそうですが...。ずっとここ何年か,やはり精神的にしんどい子どもたちが増えてきているそうです。ただ今までは私たちの学校では元気のいい子どもたちで隠れていたけれど,学校が落ち着いてきたことから目に見えるようになってきているとのことで した。

(保健の先生より) →

 そういう保健室での場面をみると、とんでもないようなしんどい子どもたちに見えてきて,何をしたらいいのかわからなくなります。
 しかし,彼女たちの仮説の感想を読むとすばらしい感想に出会えます。「こんなことに感動しているんだ」とか, 他の子どもたちの感想と同じように授業を楽しんでいるのがはっきりとわかります。

 もちろん、それですべてが変わるわけでもありません。しかし, 板倉先生が「たとえ 1 時間でも楽しいということがあれば決定的に違うんだ」と言われていますが,まさにそのことかなあと思いました。 

 仮説の授業は受け入れられているのは確かなので,まずは仮説の授業書をしっかりやって行きたいとつくづく思いました。