●小島寛之『数学でつまづくのはなぜか』(講談社現代新書,2008) より

                                                                                               2022.8.7   水口民夫

[問題]    「10円玉を指ではじいて,止まっている10円玉にぶつけるとどうなるでしょう」

 これは実験してみれば明らかですが,実験をしなくても計算で結果がわかります。

そのためには,次の2つの物理の原理を使います。

 

① 2つの10円玉の速度の合計は,衝突前と衝突後で変化しない。(運動量保存則)

mV = ma + mb

 

 

 

 

 

 

 

② 2つの10円玉の速度の2乗の合計は,衝突前と衝突後では変化しない。(運動エネルギー保存則)

1  mV² =1 ma² +1 mb²

2             2             2

 

最初にはじいた10円玉の速度をV,はじかれた10円玉の衝突後の速度をa,止まっていた方の10円玉の衝突後の速度をbとします。

答え

a² + b²  = V² =(a + b )²=a² +2ab +b²

 a² + b²  =a² +2ab +b²

2ab = 0   → a か b が 0   


 これは,aかbのどちらかが0になることを意味しています。(a=b=0であるとすると1式からV=0となり,この場合はあり得ません)

 仮にb=0とすると,(1)式からa=Vになります。これは,はじかれた10円玉が衝突された10円玉をすり抜けてそのまま進むことを意味しますから,矛盾します。

 もし仮に衝突した10円玉が跳ね返るとすると速度は-Vになります。この場合は,(1)式より-V=Vとなり,これも矛盾します。  

 したがって,答えは,a=0とb=Vでなければならないことになります。

 つまり,はじいた10円玉は静止し,衝突された10円玉が同じ速度Vで動き出すという結果になります。 

 この実験は,サイエンスシアターの「衝突の力学」の実験の一部ですが,サイエンスシアターでは,このように数式で結果を説明はしていません。

 数式についてアレルギーのある人は,問題を考える意欲は出てこないと思いますが,サイエンスシアターのようにして問題を出せば直観でも予想することができるので,意欲がなくなることはないのです。

 力学の問題でも,数式を使わないで意欲的に考えることは,可能です。