●読むだけの数学                     ー中学・高校の授業を通して見えてきたものー 2022.6.30

 板倉先生が「たとえ 1 時間でも楽しいということがあれば決定的に違うんだ」 と言われていますが,まさにそのことかなあと思いました。ルネサンス大阪高校での数学の授業で受けた衝撃を残しておきたくなりました。今までに書き上げてきた資料を中心にまとめました。 

 そういえば,中学校のある出来事を思い出しました。それが最後の資料1「楽しさの土俵に上げる」です。本当に数学を毛嫌いしているように見えます。彼の言葉によれば「数学がきしょい!うざい!」のだという。これが中学校の数学の授業の現実です。

 また,私の見てきた中学校でいろいろな問題をかかえる子どもたちの現状の資料 2「いろんなタイプの先生がいいのかな」です。

 資料 2 は資料 1 の子どもたちの学年が卒業した後の表面的には落ち着いてきた学校の子どもたちです。保健室の先生から聞いた話を中心にまとめました。例えばリストカットを繰り返す子どもたち。でもたった 1 時間の楽しい授業のあとの感想で「予想があたってけっこう楽しかった。」「実験しないとわからないこともあるんだなあと思った。こういう実験を初めてした人とか今でもやっている人は,発想がスゴイと思う!!」と感動して書 いているんです。でも次の時間は保健室にいるんです。人間って多面的なんです。 いろんな顔を見せるんです。しかし,その一面のどこかに楽しいものがあれば決定的に違うのではないかと思います。

 資料3「今までの 理科の先生とまったく違う」は、別の学校で,昨年までは理科の教師が 4 人も(私が5人目)変わるほど大変しんどい学年だったようです(このときは理科を教えていました)。その時の生徒の感想文が忘れられません。「今までの学校の理科とはくらべものにならないくらい楽しかった。もしかしたら,全 教科含めてこの理科の授業が一番楽しいと思う」「楽しくて、50 分があっとい う間に終わった」などの感想をもらいました。 それが,私の中ではいまのルネサンス大阪高校の授業につながっていきます。古い資料で申し訳ないのですが,『「高校を中退してよかった」いう高校中退生』 (資料 4)の記事にも重なります。「高校を中退してよかった」と言う高校生は 衝撃的です。 

 

●ルネサンス大阪高校の非常勤講師

 だからこそ,高校生にも 1 時間でも楽しいという授業を続けていきたいという思いでいっぱいです。通信制高校なので,ある教科の単位を取るのには日ごろ は動画を見て勉強をしてレポートを提出,実際に学校に来てスクーリングを受け, 最後にテストを受ける。私はこのスクーリングを担当しています。スクーリング は 1 時間のものもあれば2~3時間のものもありますが,本当に一期一会です。 最初,頼まれたのは数学でした。急に数学の先生が辞めることになったので,来てほしいということでした。

 

 中学校でも数学は担当していたのですが,高校の数学も免許は持っていても、 実際には高校で授業をしたことがありませんでした。それで、少し不安もありましたが,仮説があるではないかということで引き受けることにしました。最初、 高校生向けに何をしたらいいのか非常に迷いました。しかし、よく考えれば,本当に一時間だけなので教科書をする必要もなく,やはり「一時間でも楽しい」と いう思いを持って帰ってもらいたい。そういう意識が非常にありました。しかし、 そんなに、高校の数学のプランがあるわけでもありません。それも数学I,数学 II,数学IIIα,数学IIIβ,数学 A,数学 B など,なん科目にもわたっています。 それを私ひとりがしなければならないので,非常に負担が大きかったです。そし て,総合読本とかいろいろ探しまくって,やっと見つけてきたのがいくつかあります。

 

 

●ルネサンス高校の数学授業には「1時間もの」

 数学に関係するもので 「1 時間もの」ってあまりありません。しかし,探すとなんとかぴったりしたものを見つけることができました。それが次に紹介するものです。スクーリングは一年間の数十時間の動画教材以外にたった一時間だけなので本を読むだけ,という授業もありなのかなあと思うこの頃です。 

  西尾の松崎重広さんが板倉聖宜さんが書かれたものを,「読んで楽しむ算数・ 数学の話」シリーズの一つにまとめ,印刷すればすぐに授業にかけれるように編集されたものです。 

「一筆書きの数学」

 「数学」は必修科目で全員が履修します。ということは,中学校でもそうでしたが, 数学を毛嫌いする生徒さんが非常に多いことが予想されます。ということはもう 数学が大嫌いなことを想定して考えると「一筆書きの数学」しかありませんでした。これは一筆書きのできる出来ないの法則を見つけることになります。途中で生徒さんに聞きながら実施しました。数学が苦手な生徒さんも楽しめます。「位相幾何学(トポロジー)」にもつながる,楽しいものになりました。 

 他に、松崎「はがきくぐりぬけ算数」、板倉「記号と暗号」「磁気カードの秘密」、長岡清「借金の数学」、出口「本当の数、うその数(第2部)」「落下運動の世界」

[ルネサンス大阪高校のこと]

  ルネサンス大阪高校は通信制の高校で,通常はWEB上の動画で学習の上レポートを提出します。学校に登校するのは教科によりますが,3 年間で「数学」なら 1 時間だけ,「総合的な探究」なら 1時間だけ,あるいは「物理基礎」なら4時間だけのスクーリングを受けに学校に来ています。6 割ぐらいの生徒が不登校経験があったり,高校中退しているのですから,スクーリングにさえも出てくるのが大変な子が多いのです。ときには親子で参加します。 

 だから,楽しい授業(スクーリング)は必須です。 (私の勤める通信制の高校は 6 割ぐらいが中高で不登校だった生徒たちで す。残りの 4 割の生徒は芸能活動,ゴルフなどのスポーツ,バレーなどで海外に留学で時間が取れない生徒・社会人です。) 

 また,感想は出席票の裏に授業アンケートを書くようになっています。ですから,ふつうの他の先生の授業のときも書けるようになっています。しかし,生徒にとっては書かないのがふつうのようです。ですから,何も書かないのはいわゆる「どちらでもない」ものだと勝手に解釈しています。ですから,本当に怖いのは,ずっとスマホを触っている生徒です。さすがに,このときは気がめいります。

 

[終わりに]

 どうでしたか? ルネサンス大阪高等学校の生徒ってすばらしいではありませんか? 自由に生きています。通信高校の 1 時間だけのスクーリングという特殊な環境のもとですが,自分自身でも,高校生の意外な反応に驚いています。特に「数学なのに本を読むだけという授業」の反応の良さに驚いています。

  いまでも忘れられないのは,授業中の話で数学 A は選択履修ですという話をした時のことです。数学A の受講生の中の1人の女の子にはびっくりしてしまいました。

「えっ、受けなくていいの。 それじゃ帰るわ。」だって。なだめすかして,やっとのことで出席することになりました。それを見ていたほかの生徒さんが,最後に言った言葉も忘れられません。授業が終わってから,1 人の男子の生徒さんがきて,

「先生も大変だなあ」

 言ってきました。

「でも、一番関心をもって授業に参加していたなあ」とも。 

 

 また,一筆書きの授業の感想で

「生徒が発言しているのをはじめてみました(自 分もふくめて)」

と書いている高校生を見て、改めて私がしていることは普通じゃないんだと思いました。

 本当に顔をあげられないような、先生の顔をみることさえできない、自分に自信のなさそうな生徒さんが多いですから、配慮して私以外の先生はまず授業中に指名することはしません。だからこそ,よけいに印象に残ったのでしょう。 

 中学校でいろいろ問題を抱えていた子どもたちが,今のルネサンス大阪高校の生徒だと思います。そう考えると素晴らしいじゃないですか? こんなにも元気 になっているでありませんか? 高校を中退した生徒たちも中退して良かったんだと思います。素晴らしい選択をしたんだと思います。そしてすべて繋がって いるように思いませんか? 

 いろんな生徒さんがいるから,それが楽しみでもあるんです。本当にあきません。 

 

 現在通信制高校でも楽しく過ごすことができています。ですから、もうしばらくは高校生とも楽しくやっていこうと思っています。仮説仲間の水口さんには高校のことでは大変お世話になりました。本当にありがとうございました。