●赤道上の気温 〜数式を使わない〜

                           2022.07.12 猪塚憲機

 数式を使わずに数学の問題が解けたい楽しいですよね。そんな問題を紹介します。

 赤道上で、ある地点Aと地球中心対称な地点3を「地点Aの対蹠点(たいせきてん)」といいます。つまり

「地球の裏側の地点のことです。(地球は完全な球とします。)

<問題>

 ある時刻に赤道上で一斉に気温を測定した時、同じ気温となる対蹠点の組A, Bは存在するでしようか

(気温は「連続的」に変動すると仮定します。)

<予想>

()必ず存在する。

()必ず存在しない。

()存在する場合と存在しない場合がある。

 

[解説]

   板倉先生は「数学はイメージが大事である」と述べておられます。そこで我々も赤道上に降り立ってイメージしてみます。まず地点Aから考えます。

   X君は温度計を持って地点Aにいます。そして赤道上を超スピードで東に向かつて移動します。その時の各地点の気温を測定します。そして反対側の地点Bまで行きます。今、仮にA地点の気温が28.2度、B地点の気温が24.2度だったとします。これをグラフに描くと次のようになります。

 次に地点BからY君が同時に東に向かつて温度計を持つて超スピードで移動しながら気温を測定し、地点Bまでいきます。これをグラフに描くと次のようになります。

 二つのグラフを重ねて描くとつぎのようになります。このように必ず交ります。

 この地点をC(C´ )とすると「対蹠点の組C,C´」で気温が同じになります。

 (ちなみに、地点AとBで同じ気温の場合は「対蹠点の組A、B」が同じ気温です。)

よつて正解は(ア)でした。この定理は「ボルスク・ウラムの定理(一次元バージョン)」といいます。こういうことを調べる分野は「トポロジー(位相幾何学)」と呼ばれています。有名な「ポアンカレ予想(定理)」もこの分野です。

 

付記 (マニアック)

上に示したことを「数式」を使って証明します。地点Aから東向きにθだけ動いた点Xの気温をf(θ )と表すことにします。

Xの対蹠点の気温はf(θ +π )です。

ここで次の関数を定義します。

G(θ )f(θ )f(θπ)

この時G(0)=f(o)f(π)

G(π )=f(π )f(o)

です。

したがつてG(0)=― G(π )です。

y=G(θ )のグラフを描くと次のようになります。

G(0)>oのときはG(π )<oですので

グラフから点CにおいてG(θ )=oとなります。

(厳密には中間値の定理が必要です。)

したがってf(c+π )=f(c)

が成り立ちます。