⚫︎ガロア先生の数学の話①

新薬開発のパラドックス  ~シンプソンのパラドックス~

原案 猪塚憲機(愛知・医師) 編集 水口民夫(2022.4.27)

 ガロア先生はお医者さんです。

 ガロア先生はフランスで生まれました。小さいころにお父さんの仕事の関係で日本にやってきて,日本の学校で学び,日本でお医者さんになりました。ガロア先生は,医者の仕事をしながら数学の研究をするのが大好きです。そればかりか,近所の子どもたちに数学の話をすることも大大好きです。

 今日も近所の三人の子どもたちがガロア先生の医院にやってきました。

 一人目は,のぶ子ちゃんといいます。のぶ子ちゃんは,学校の勉強では社会の歴史が得意です。いまは人の名前の歴史について関心をもっています。

 二人目は,けん君です。けん君の得意科目は算数です。けん君はまだ小学生ですが高校生のお兄ちゃんの数学の本を読んでいます。

 三人目は,たみ夫くん。「たみちゃん」とみんなから呼ばれています。たみちゃんは自然の中で遊ぶのが大好きです。

 さて,ガロア先生のところにやってきた三人の子どもたちは,さっそく先生から次のような問題を出されました。

 

「D製薬会社はナロコ病の新薬X(ねこミン)を開発しました。そこで,これまでの製品Y(いぬポン)よりもX(ねこミン)のほうが効き目があるかどうか調査することになりました。

 「病院A」と「病院B」とで,どちらがよく効くかを調べたら次のような結果になりました。

ガロア先生「さて,この実験結果から「ねこミン」と「いぬポン」のどちらの薬のほうが効き目がいいか,わかるかな?」

 すると,のぶ子ちゃんは,次のような式を書いてみんなに説明しました。

 A病院

「ねこミン」を与えた63人のうち25人に効き目があらわれたわけね。これは割合であらわすと,

25人÷63人=0.396→39.6%

「いぬポン」を与えた31人のうち12人に効き目があらわれたんだから,これは割合であらわすと,

12人÷31人=0.387→38.7%

ということは,  A病院では,「ねこミン」のほうが「いぬポン」より効き目がよいということになるわ。

B病院

「ねこミン」を与えた49人のうち37人に効き目があらわれたから,これは割合であらわすと,

37人÷49人=0.755→75.5%

「いぬポン」を与えた85人のうち61人に効き目があらわれたから,これは割合であらわすと,

61人÷85人=0.717→71.7%

ということは,  B病院でも,「ねこミン」のほうが「いぬポン」より効き目がよいということになるよね。

 だから,二つの病院で「ねこミン」のほうが効き目がよいことが分かったんだから,当然「ねこミン」の勝ちだよね

 

 さて,あなたは,のぶ子ちゃんの考えについてどう思いますか?

 ア. 「[ねこミン]の方がよく効く」と言っていい

 イ.  「[ねこミン]の方がよく効く」とは言えない

 

たみちゃん「さすが,のぶ子ちゃん。すごいね! 割合の式で考えればいいんだ。ぼくの予想はア.「[ねこミン]の方がよく効く」と言っていい,だな」

その話をじっと聞いていたけん君が次のように言いました。

けん君「いや,待って。のぶ子ちゃんはA病院とB病院の数字を別々に計算しているよね。でも,両方の病院でのそれぞれの薬が効いた人数を合計したらどうなるかな」と言って次のような式を書いてみんなに説明をしました。

 

X[ねこミン]:  62/112=55.5%

Y[いぬポン]:  73/116=62.9%

つまり,X[ねこミン]よりもY[いぬポン]のほうが効果が高いという結果になったのです。

ガロア先生「けん君のいうとおりなんじゃ。このような例は「シンプソンのパラドックス」と言われていて,足し算したら結果が「逆転」してしまうという「直感」に反することもありえるということなんじゃ。本当に世の中,何が起きるか分からないということだな」

たみちゃん「へえー,そういうことか。直感だけで物事を判断すると間違うこともあるんだね。ねえ,ガロア先生,もっと他にもこんなパラドックに関する話はないのか気になるなあ」

ガロア先生「そうだね。今度またお話してあげようね」

 (「例」のお話はすべて私=猪塚の創作です。実在の会社,病院などは一切関係ありません。)

<参考文献>

谷岡一郎(2001)『確率・統計であばくギャンブルのからくり』講談社 pp.34-36

 

 

編集後記

「新薬開発のパラドックス」のはどうでしたか?

このお話を作られたのは愛知県の仮説実験授業研究会会員の井藤さんの友人=猪塚さんという方です。井藤さんと猪塚さんは高校時代からの友人でいまでも定期的に数学に関する研究会を自宅で開催されています。

先日のたのしい授業プラン研究会に猪塚さんも参加され,この「新薬開発のパラドックス」の話をお聞きして,小学生を対象にしたプランができないものかと思いました。小学生にでも親しみが持てる話にするために三人の架空の子どもに登場してもらいました。このアイデアのもとは板倉さんの『ぼくらはガリレオ』に登場する子どもたちです。

猪塚さんが作られた話は,これ以外にもあります。小学生だけでなく一般の人にも興味をもってもらえる話題をこれからも提供できたらいいなあと思っています。(水口)

 

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ガロア先生の数学の部屋① ー新薬開発のパラドックスー
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