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コモンズとは何か

⚫︎山田奨治の本を中心に述べていく

 山田奨治『著作権は文化を発展させるのか: 人権と文化コモンズ』(2021.人文書院)という本があります。その帯にこうあります。

著作権のパラダイム転換へ

 複雑になるだけの著作権は本当に文化のためになっているのか? それはユーザーの権利を阻害していないだろうか? 本書はこうした観点から、権利論コモンズ論を基軸に人文社会、自然科学の知見を幅広く援用し、そもそも文化とは何かまで根底的に問い直す。ユーザーの人権という視点から、数百年に及ぶ著作権のパラダイム転換を提案する意欲作。

 

⚫︎「コモンズ」とは何か

 皆さんは「コモンズ」という言葉を聞いたことがありますか。

「コモンcommon」という英語の単語は「ふつう/共通」など,いろいろな意味に使われます。「common sense」というと常識のことです。

 「入会地」という言葉はどうでしょう。昔は,村に入会地があって,特に里山は,村民ならだれでも自由に使える山でした。

 「入会地」は英語で「common land(コモンランド)」です。

 複数形で「コモンズ(commons)」というと,少し特別な意味になります。「共有=みんなで使える」というような意味になるのです。

wikipedia「里山」より


⚫︎コモンズの種類

  wikipediaで「commos https://en.wikipedia.org/wiki/Commons」を見ると,「環境コモンズの種類」について,次のように書かれています。

 

(1) 土地利用(「入会地」など)

(2) 文化的知的コモンズ(文学,音楽,著作権etc)

(3) デジタルコモンズ ( wikipedia フリーソフトウエア etc,)

(4) 都市のコモンズ (広場,街路 etc.)

(5) 知識のコモンズ (大気汚染,暴力,混雑,不平等 etc,)

 こうして見ていくと,実に幅広い分野で「コモンズ」は論じられています。

ハートクエイク「共有地の悲劇の具体例」https://heart-quake.com/article.php?p=11935


「コモンズ」という言葉は,アメリカの生態学者ハーディング(1915-2003)が1968年に「コモンズの悲劇」という論文を発表してから広がりました。

⚫︎(1)農村の入会地とは

 上の図を見てください(山田 P.189)。右端が「入会地」です。農地はaさん, bさんのものですが,入会地は「みんなのもの」です。明治維新のときに,この「入会地」が問題になりました。それぞれの農地には「地券」が渡されて,個人所有がはっきりしましたが,入会地は「だれのものか」が問題になり,裁判ざたにもなりました。

⚫︎(2)文化的知的コモンズについて

 市販の音楽CDには,右のようなシールが貼ってあります。

「日本音楽著作権協会」は,音楽著作権を守っている団体です。

たとえば、あなたが飲食店を始めて、店内で音楽を流そうとするとJASRACがやってきて「お金を払え」と言います。でもそのおかげで、音楽家は著作権料をもらって生活することができます。

JASRACの考え方

 日本音楽著作権協会(JASRAC)『コピライト』2019.8月号「人に人権 音楽に著作権」をスローガンに掲げるJASRAC............

 .著作権は、著作者の人格権財産権からなる私権であって、憲法で保障された基本的人権であることを踏まえ、コモンロー諸国の功利主義的法理になじむ "copyright" ではなく大陸法諸国の自然権的法理になじむ"author's right"と理解すべきではないかということです」

 

(山田(2012) P.26 大元は浅石道夫2019「これまでの10年 これからの10年ーJASRACの来し方行く末」『コピライト』700(2019/8):46-47)

[問題1] このJASRACの考えをどう思いますか。

ア.  賛成

イ.  反対

ウ.  どちらとも言えない

⚫︎喫茶店を開いたKさん

友人が喫茶店を開業しました。彼は「店内音楽」をどうするか、で悩んでいました。以前なら、「USEN」に入り、月に6000円ほど払うのが当たり前でした。

 でも今は、USEN以外にも安いサービスがあります。

またyoutubeでは自分で作った曲を「無料で使ってください」というピアノ演奏のサイトもあります。またラジオ放送なら無料です。

 もちろん、ミュージシャンの権利を守るのは大切ですが、世の中はどんどん進歩しています。「法律に規制されているから著作権は守らないといけない」とは、かんたんに言えないのです。

⚫︎「音楽」には所有があるか

「音楽には所有があるか」......それは、もちろん、あります。

 ただ、多くの製作者には「お金を得たい」だけでなく「自分の作品を広めたい」という気持ちもあります。それは、著書などの著作権にも言えることです。

 「音楽にも著書にも、作者の所有がある」

 では、どうしたらいいか。

 それはまず「作者が気持ちよくなるようにすること」ではないか。法律に縛られることではなく、所有権をお互いに守っていく社会にしていくことが、楽しく生きるこつのように思えるのですが、いかがでしょう。

⚫︎「総有」という考え方

 上は,鳥越(1997)に掲載されていた図です(山田 P.189にも)。鳥越は,「日本の明治期以降のムラには「〈オレの土地〉の底に〈オレ達の土地〉という考え方があった」と言います。たしかに,地方では今でも「隣組」という考えがあり,近所の人間関係を大切にしています。

 山田(2021)は,YOUTUBEについて,図の「総有地」にあたるのがgoogle社で,その上に個人個人がコンテンツを公開している,と書いている。さらに,著作権一般についても,Aのような個人個人が別々に権利を持つのではなく,みんなのもの(総有)という根底がある,と言っている。

 

⚫︎「著作権」とは,板倉聖宣の考え

 板倉は『模倣と創造』(仮説社,1987)の中で「著作権,英語でコピーライト」について,次のように書いています。

 

(コピーライトは)複製権である。

狭い意味では「著作物を経済的に利用する権利」を著作権ということになるが,もっと広くいうと「著作者が著作物について自分の人格的な利益を守る権利(著作者人格権)」をも含むものである。 (p.31)

 

 つまり「引用する」ときには,著作者の利益が損なわないように「引用のルール」を守らないといけません。 それは難しいことではありません。かんたんに言うと著者が気持ちよくなるように(不快な気分にならないように)すればいい」だけのことです。