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中世は暗黒の時代か,卵が温められている時代か

⚫︎3〜4世紀の古代ローマは,どんな時代か

 板倉(2004)『原子論の歴史』上は,次のように書いています。

「3〜4世紀になると,キリスト教万能の時代が始まって,原子論どころか,あらゆる哲学が抑圧されることになるのです」

[問題1]

「キリスト教万能」になった背景として,正しいのはどれでしょう。

ア. 古代ローマの経済力が衰えた

イ. 暗い神秘主義の時代になった

ウ. 北ヨーロッパなど他地域から雑多な人々が入り込んだ

エ. 戦争がひんぱんに起こった

オ. その他

bing作成「古代ローマ時代のアレクサンドリアの図書館」西暦300年頃,完全に破壊される。


 

 ロンメン著,阿南成一訳『自然法の歴史と理論』有斐閣,1956(原著,1947)によると

⚫︎崩壊過程にある暗い神秘主義にふけっていた古代社会において,キリスト教の到来を以てしても,新しい哲学や新しい世界秩序は,すぐには与えられなかった。初期のキリスト教徒の大部分は,古代社会の崩壊腐敗の過程の最中の中にあっても,終末的な気持ちにとらわれていたからである。そのためにキリスト教の教えの人の魂を変化させる力も初めのうちは発揮されずーーー⚫︎ p.34

   

  板倉(2004)『原子論の歴史』上,p.191より→

⚫︎中世,自然法の研究は,いつ頃,盛んになるか

[問題2]

 中世(ふつう4-5世紀から15世紀)の間に「自然法」が盛んに研究されたのは,いつ頃からでしょう。

ア. 西暦700年以降

イ. 1000年以降

ウ. 1300年以降

 

 西ローマ帝国の崩壊により,ギリシャ語の知識が衰退していきました。

 その学問的転機は,十字軍の遠征(1096-1303)です。中東地域に残っていたアリストテレスなどの科学者や哲学者のギリシャ語原文やアラビア語翻訳が見つかり,それはラテン語に翻訳されました。

 そして1000年頃から,教会や修道院に付属する学校(スコラ)が興り,そこで古代ギリシアの哲学も,再び研究されるようになります(スコラ学)。

wikipedia「スコラ学」より


 その中でも,トマス・アクィナス(1225-1274)は,「自然法」にアリストテレスの哲学も加えて説明しています。

 つまり,人間は神に似ているのだから,理性を持っていて,それを「自然法」と照らしわなせて行動できる。

 その考えは,近代のホッブスなどの考えに引き継がれます。

 


[問題3]

 ジョルダーノ・ブルーノ(1548-1600)は「異端」の罪で,1600年に火あぶりにされます。ブルーノは,「神」について,どんな主張をしていたのでしょう。

ア. 「神は存在しない」と主張した イ. 「神は存在する」と主張した

 板倉(2004)『原子論の歴史』下 (仮説社 2004 p.33)には,ブルーノの主張について次のように書かれています。

⚫︎(ブルーノの主張は)神はこの宇宙を人間のためだけに創造したのではない。神は無限の宇宙,複数の宇宙を創造し,それを支配している⚫︎

 

 この考えに従うと,プロテスタントでもカトリックでもどんな宗派でも神は同じように「支配している」ことになります。「つまらない争いなどしない方がいい」というのがブルーノの主張です。

 この考えは,彼が原子論者ルクレチウス(BC99頃-BC55)が書いた『宇宙を創るものアトム』(1417年に再発見され,それが印刷され,多くの人が読んでいた)を読んで思いついたものでした。

⚫︎グローティウスは「自然法の父」と呼ばれる

 オランダの若き法律家グロチウス(1583-1645)は,『自由海論』(1609)という本を出版し,次のように主張しました。

 

もともと,世界はだれのものでもない。みんなのものだ。それは「自然法=人間が生まれながらに持っている法律」で決まっている。それなのに,教皇が勝手に「世界はだれかのもの」ということはできない。教皇だろうとだれだろうと「自然法」に逆らうことはできないのだ。

 

 グロチウスは,古代ギリシア・ローマのさまざまな著作を引用して戦いました。

 その後グロチウスは,『戦争と平和の法』(1625)を書き,「国と国との自然法(国際法)」についても論じました。

 その中で「自然法」についての一般論を次のように述べています。

 自然法は,神でも変えることができないほど不変なものである。〈神の力も及ばぬもの〉が存在するのだ。

 キリスト教が絶対だった時代に,グロチウスは「自然法は,神よりも何よりも原理的なものだ」と言ってしまったのです。

 グロチウスは,当時のキリスト教中心の社会から迫害されました。著書も「禁書」になりました。

 にもかかわらずグロチウスの思想は,受け継がれていきました。

[問題4]

 ブルーノは1600年に処刑されてしまいました。グロチウスも「神でも変えることができない」と言ったのに処刑されることはありませんでした。なぜでしょう。

 

 その答えの1つに「いた場所」に関係がありそうです。ブルーノは,フランス,ドイツにいたのに,わざわざヴェネチアに来て逮捕されてしまうのです。それに対してグロチウスは,オランダで活動し,逮捕されますが,脱走して,命をとりとめます。

⚫︎「自然権」という言葉も用いたホッブス

トマス・ホッブス(1588-1679)は,イギリスの哲学者で清教徒革命の精神的支えになった人です。

 ホッブスは『リバイアサン』(1651)を書き,「自然権/自然法」について述べています(「第14章」)。

 人間であれ,動物であれ,元々「生きるために自分の身を守る」権利を持っている。

 それを,ホッブスは「自然権」と命名しました。

 さらに19の理性の戒律としての「自然法」について述べている(これは人間のみ)。

1 人々は,平和を勝ちとる努力をせよ。それが不可能なら,争いをしてもよい

2 平和のために,必要なら,上の権利を放棄せよ。

 ホッブスの言う「万人の万人に対する闘争」や「人工人間=リバイアサン」の考えは,ここから出てくる。

 以下3から19までの「自然法」を述べている。その内容は「十戒」のような道徳的な内容が多い。4「許してやるべきだ」など。


⚫︎ロックは「自然権」か「自然法」か

ホッブスは,まず「自然権」があって,その後に「自然法」があるという主張でした。

[問題5]

   ジョン・ロックの主張は「自然権」「自然法」どちらが先でしょう。

 

 ジョン・ロック(1632-1704)は『統治論』(1689,『市民政府論』とも言う)には,次のように書かれています。

 自然の状態にはそれを支配する自然の法があり,それはすべての人を拘束している。そして理性こそ,その法なのだが,理性にちょっとたずねてみさえすれば,すべての人は万人が平等で独立しているのだから,だれも他人の生命,健康,自由あるいは所有物をそこねるべきではない。.......(中略)

 そして万人が他人の権利を侵したり,相互に危害を加えたりすることがないように,そして平和と全人類の保全を願う自然の法が守られるように,......その法の違反者をその違反を防止する程度に処罰する権利を持っている。...... P.196

 宮川透訳「統治論」『世界の名著』32 (中央公論社,1980)

 


そして

1「人間はひとたび生まれれば,自分を保全する権利をもつ」      

                               自分の体は,自分の所有     

2「自分の労働を混合し,また何かをつけ加え,それを自分の所有物にするのである」

                        自分が労働を加えたものは,自分の所有

と『統治論』は展開していきます。

⚫︎アメリカの独立宣言を訳したのはだれ?

[問題6]

 「アメリカ独立宣言」を,日本で初めて翻訳して本の載せた人はだれでしょう。(1886,明治-2年)

 

 天の人を生ずるは,億兆,皆同一轍(同じレベル)にて,これを付与するに動かざるべからざるの動議(権

利)をもってす。  すなわち,その動議とは,人の自ら生命を保し,自由を求め,幸福を祈るのたぐいにて,他より之をいかんともすべからざるものなり。

 

(上を現代語にした)

 天は,人を,億兆,みな同一なものとして作った。そして天は,人に,決して動くことのない権利を与えた。その権利とは,人が自らの命を保ち,自由を求め,幸福を祈るのたぐいである。それは,決して他人うばったりもらったりできるものではない。

 

 これは福沢諭吉(1835-1901)の『西洋事情』(18869に載った文章です。

その後,福沢は『学問のすすめ』初編(1872(明治5)年)を書きます。

 

「天は人の上に人を作らず, 人の下に人を作らず, と言えり」

は,こうして生まれたのです。