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〈ものとその所有〉著作権という権利はだれが作ったか

⚫︎〈ものとその所有〉にリベンジ! 「音楽」には所有があるか

 〈ものとその所有〉といえば、村西さんに宇治の街角かがく倶楽部で授業をさせてもらい、その後、舟橋さんにコメントをもらったことが大きな思い出です。当時は、舟橋さんが言われることの意味がわからなくて、自分自身にもモヤモヤがあって数十年、研究がストップしてしまいました。

 こんな問題がありました。(井藤〈ものとその所有〉ver12. 2017年1月

[問題]

 音楽にも,「所有」があるでしょうか。

予想

 ア. 音楽にも「所有」がある。(だれもが自由に演奏したり聞いたりできるわけではない)

 イ. 音楽には「所有」がない。(だれもが自由に演奏したり聞いたりしていい)

 ウ. どちらともいえない。わからない。

この問題の答えは

(1)法律による?  (2)自然法による? (3)その他?

 

 最近になって、京都サークルで舟橋さんが「〈ものとその所有〉が気になる」「論拠となるのは法律ではないのでは」と言ってくれました。感謝、感謝で、少しリベンジしてみます。

 問題となるのは、次の2つだと思っています。

1 「所有」のあるなしは、法律が決めるのではない。

2  あるものの「所有」というものは、時代とともに変わっていく。

 「音楽の所有」を例に「〈ものとその所有〉問題」を考え直すきっかけにしたいと思います。

 

⚫︎ミュージシャンたちはどうやって収入を得ていたか

 気になっているのが、音楽家たちのことです。1800年代までは、音楽は「直接、演奏会で聴くもの」だったのが、1900年代になってから「レコード」「ラジオ」が普及して、多くの演奏家は職を失ったような気がします。演奏家たちは、どうやって自分の仕事を守ったのか、守れなかったのか、その歴史を見ていきたいと思います。

 たとえば、桑田佳祐[推定年収:5億円]は、どうやって稼いでいるのか。

1 コンサート 2楽曲の印税 3テレビ出演 

 右のグラフを見ると「放送など/演奏など」は、桑田の曲が本人でなくても演奏されると、著作権料をテレビ局などが払っているのです。それが「5億円」の多くを占めていることは間違いないでしょう。

 

 ▶️「東洋経済」JASRAC一極支配に挑むエイベックスの勝算. 2016.1.24 より


⚫︎歴史上、ミュージシャンは、どうやって稼げるようになったか

 以下は、

   主に⚫︎1 アンダーソン著『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』2009.11.21NHK出版から

 他に、⚫︎2 榎本幹朗「ラジオの登場で売上25分の1になったレコード産業」▶️連載第36回

    ⚫︎3 History of the Record Industry, 1920-1950s  ▶️Medium.com

⚫︎モーツアルトやベートーベンはどうやって稼いだか

 主にパトロンからの収入です。楽譜の著作権料制度ができるのは1800年代の半ば以後ですから、クラッシックの作曲家は貧乏でした。

⚫︎1900年頃、音楽というと、直接、演奏家から聞くものでした。1908年、フォードがT型の製造を開始した頃、ピアノブームが起こって、地域や家庭などで演奏会が広く行われるようになっていました。

  1914年、ASCAP(全米作曲家作詞家出版者協会)ができ、アーティストのほぼ全部を抱えました。そして音楽を利用する者からライセンス料を取るようになるのです。

⚫︎レコードの時代が来る

 1877年エジソンが蓄音機を発明します。その後、円盤型のレコード(1887)になり、ジュークボックス(1899)もでき、ジュークボックスは1935年頃に大流行します。

⚫︎ラジオの時代が来る(1920年代後半)

 1920年にラジオの公共放送が始まります。当時のラジオは、生放送で音楽を放送しました。ASCAPは、ラジオ局の総収入の3%を求めました。「ラジオは演奏会の何倍もの人が聴く」という理由からです。

 

▶️文春オンライン 2017.12.6 より

⚫︎レコード、どん底時代を乗り越える

 大恐慌で、レコードの販売は「ほぼゼロ」状態になります。それが音質のいいレコードができ、蓄音機が非常に安くなったことで、盛り返します。


⚫︎1939年、ラジオ局、ASCAPの値上げ要求にどうする

 ラジオの隆盛に伴い、ASCAP は、3%から5%への値上げを要求しました。

[問題]

  ラジオ局はASCAP の要求にどう対応したでしょう。

ア. そのまま従った。 イ.裁判所に訴えた。 ウ. 生放送を打ち切り、すべてレコードにした  エ. その他

 

 ラジオ局は、生放送をすべて打ち切り、レコードにしました。

最高裁は1940年「ラジオ局は、レコードを買えば、かけてよい」という判断をします。

ASCAPは、対抗して、有名音楽家に「レコーディングをやめる」という対抗策をとります。

 

 そうなるとラジオ局は、ASCAPに変わる新しい団体を作ります。BMI(放送音楽協会)を作ります。BMIは、地方で活躍するリズム&ブルースやカントリー&ウエスタンのミュージシャンが中心になります。彼らは、金銭よりも自分の曲が放送されることを望みました。ラジオ局に、タダで曲を流してもらったのです。

⚫︎ミュージシャンたちの現在

 ASCAPは、「ラジオ/レコード」が業界を破滅させると恐れましたが、実際には、音楽ビジネスは、巨大で儲かるものになりました。ミュージシャンたちは「著作権料」をそれなりにもらっています。

 「ラジオで曲を聴く」ことがきっかけで「レコードを買う/コンサートに行く」という流れが生まれたのです。

 

 現在、我々は「ユーチューブ」を無料で見ることができます。

 「ユーチューブ」は広告収入で成り立っています。ユーチューバーは、1回再生されるごとにお金がもらえるという仕組みです。

 右は、おおよその収入です。▶️マーケドリブン


   アンダーソン(2009)は、「すべての価値あるものはフリーになりたがる」と論じています。さらに「テクノロジー、特にインターネットの進歩により、デジタル商品の製造と配布のコストが大幅に低下し、多くの場合ゼロに近づいていく」と未来予想もしています。

 

⚫︎飲食店は、店内音楽をかけてもいいか

 友人が喫茶店を開業しました。彼は「店内音楽」をどうするか、で悩んでいました。以前なら、「USEN」に入り、月に6000円ほど払うのが当たり前でした。

 でも今は、USEN以外にも安いサービスがあります。

またyoutubeでは自分で作った曲を「無料で使ってください」というピアノ演奏のサイトもあります。またラジオ放送なら無料です。

 もちろん、ミュージシャンの権利を守るのは大切ですが、世の中はどんどん進歩しています。「法律に規制されているから著作権は守らないといけない」とは、かんたんに言えないのです。

⚫︎「音楽」には所有があるか

 最初の問題に戻ります。「音楽には所有があるか」......それは、もちろん、あります。

 ただ、多くの製作者には「お金を得たい」だけでなく「自分の作品を広めたい」という気持ちもあります。それは、著書などの著作権にも言えることです。

 「音楽にも著書にも、作者の所有がある」

 では、どうしたらいいか。

 それはまず「作者が気持ちよくなるようにすること」ではないか。法律に縛られることではなく、所有権をお互いに守っていく社会にしていくことが、楽しく生きるこつのように思えるのですが、いかがでしょう。

⚫︎次に滅びる職業は、俳優か、脚本家か

 1800年代までは、多くの演奏家たちが街にあふれ、満員のコンサート会場で活躍していました。それがレコード・ラジオ放送の登場で、多くが職を失いました。

 21世紀の今、新しい問題が起こってきています。2023年7月からアメリカのハリウッドで「ストライキ」が起こっているのです。映画関係者(脚本家、監督、俳優)たちです。理由は2つあります。

1 「動画配信の報酬改善」.....Netflixなどで映画を見る人が増えています。そういう「2次使用料が少なすぎる」と言うのです。ふつうは視聴回数に応じて著作権料が支払われるのですが、動画配信の世界はそれがよくわからないのです。

2 「AIの使用規制」.....AIによっていろいろなものが作れるようになりました。とくに「脚本」や「俳優たち」です。サスペンスなどはAIが過去のヒット作に倣って作った方がおもしろい作品ができそうです。「AI俳優」も、人間の俳優を360度スキャンして作成できます。時代劇の戦闘場面などでは、数えきれない脇役が演じていました。それもAI俳優にとって変わられることでしょう。

 

 世の中は変わっていくのです。その中で「著作権についての考え方」も変わっていくのだと思います。