●研究会の「資料作り」と「著作権」を考える
2023.4.14 井藤伸比古
水口さんから次のようなメールをもらいました。
テレビドラマ『それってパクリじゃないですか?』日本テレビ水10:00は,見ましたか?新商品開発のアイデアが盗まれたのではないか,というストーリーです。これを見ていて学研の盗作事件を思い出しました。板倉さんのアイデア,授業書の問題の一部を勝手に学研が使ったということで裁判なり,板倉さんが勝訴した事件です。これは,井藤さんの「ものとその所有」にもかかわりのあるテーマだと思います。見てない方は,オススメします。
これをいい機会にして「著作権」について考えてみたいと思います。
●ガリ本を出します。竹内さんからのアドバイス
井藤.水口編『1日1話、板倉さんの言葉』2023.5.5発行を出そうと思っています。
その中身のほとんどは板倉さんの文章を抄録したものですが、竹内三郎さんの文章もいくつか含まれます。
それで許可を得ようと一冊贈呈して、電話をしました。竹内さんは次のようにアドバイスくださいました。
研究会以外の人の文章は外した方がいい。君のコメントのところに引用する形ならいいけどね。
「私(研究会の何人かも?)は著作権に甘かったな」と痛感しました。
でもそれは「良いことでもある」と思うのです。犬塚清和さんが「板倉さんの話(板倉さんの許可なく)をテープ起こし、ガリ本に載せる」ということを始めました。1973年の『かせつ第1集』が最初です。その伝統は引き継がれ、おかげで板倉さんの貴重な話が数多く文献化されて残っています。
ただそれは研究会内での話です。研究者としての実力のある人も増え、外部の人が「資料」を目にすることも多くなりました。だから「常識としての著作権」を知っておかないといけないのです。
●特に気をつけるべきは「アイデアの引用」
板倉(1998.7.3)「最近やっていること」『板倉式発想法講座 98/99』ザウルス出版1999より、板倉さんの言葉です(p.81)。
⚪︎⚪︎さんは〈考えの引用〉の方は引用とは思っていなかった。引用には〈文章の引用〉と〈考えの引用〉とがあるでしょ。〈考えの引用〉を引用とは思っていなかった。
また、板倉「向山洋一氏の盗作論を批判する」『たのしい授業』1988.6月号には、こうあります。
「研究者にとって盗作」は「小学校教師の泥棒」に当たる
ふつう、小学校の先生が盗作をしても、職が危うくなるほどに問題視されることはありません。しかし、小学校の先生が盗みを働いたとしたら、これは大きな問題にならざるを得ません。盗んですぐに心から謝ればともかく「あれは大した盗みとはいえない」などと言い張ったとしたら只事ではすみません。子どもたちに教えるべき人間が基本的な過ちを冒したことになるからです。
同じように、大学の先生や研究者が盗作をしたら、学者・研究者としての生命が失われるほどの大きな問題にならざるを得ません。
●ガリ本で「アイデアの引用」が話題になった実例
板倉聖宣・岸勇司著、『モノとコトのはじまり ー私たちの生活と世界の人びととのつながり』スタジオみらい 2020.3.25 というガリ本があります。それは板倉「授業書〈世界史入門〉の構想」『仮説実験授業研究』3集、仮説社1994」が元になっているようです。岸さんの「前書き」によると「この板倉氏の構想をもとに、岸が編集責任者となって、〈世界史入門〉の第3部を独立させてまとめたのがこの授業書です」とあります。国会図書館の蔵書にもなっています。
(岸さんのそのガリ本はすばらしいです。その内容を批判する気はありません。「引用の仕方」の実例として使わせてもらっただけです)
その42ページ「進化論の確立と日本伝来」が、ある仮説の研究会で話題になりました。こう書かれています。
「進化論」がうまれるのも、2500年前のギリシアのことです。
ある人が次のような疑問を提示しました。
「本当か」「進化論はダーウインではないか」「板倉さんはどこでそんなことを言っているんだ」
どうも事実を調べてみると、この部分は岸さん自身によるそうです。どこから引用したかも「忘れてしまった」らしいです。
それは、wikipediaからだと井藤は思っています。
では、そういう誤解を生まないようにするにはどうしたらいいでしょう。注を一言そえるだけです。
wikipedia「進化論」により、2023.5.14岸,参照
どこから引用したかを書くと2つの利点があります。
1 自分が再び調べ直したいとき困らない。
2 内容の責任を「その引用文献の著者」に渡すことができる(単なる責任転嫁?ではなく)
●どうか「どこを、どこから引用したか」を書いてください
仮説実験授業研究会の会員は、ふつうの大学・研究所の学者なみに進化しています。立派な研究がたくさんあります。
どうか「どこを、どこから引用したか」を書いてください。それを書く「習慣」をつければいいだけの話だと思います。
私は退職後「大学院」に行きましたが、そんな「学術論文の引用の仕方」ばかりをうるさく言われた記憶があります。「大学院」は学者になるために勉強するところですから。
もしわからないことがあったら聞いてください。私の「引用法」が必ずしもいいとは限りませんが。