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「脳科学」と「仮説実験的認識論」とをくっつける

●30分でわかる池谷裕二『記憶力を強くする』2001

 池谷裕二(1970-)という人を知っていますか。脳科学者で、テレビのコミュニテーターとしても登場します。

 池谷さんが31才のときに書いた『記憶力を強くする』講談社ブルーバックス2001は、すごい本です。たとえばこんな言葉が入っています。

 

生命は物質であり、この物質こそ生命の素

生物とは物理化学の法則に素直にしたがう構造物  (池谷2001. p.120)

 


 つまり池谷は「生命は単なる物質のかたまりであり、神秘なものではない」というのです。さらに、ミクロな「脳科学」と、マクロな「教育学/心理学」とが融合する時代が来たと言って良さそうです。

 特に私は、板倉聖宣(教育学者1930-2018)の「仮説実験的認識論=何をするにも仮説実験」がずっと気になっています。

 この池谷の本に従えば、「仮説実験的認識論」が「脳科学」で説明できるような気がしています。さあ

どうなるでしょう。内容の紹介を始めます。

 

●「何をするにも仮説実験」

  板倉聖宣『発想法かるた』仮説社1992 ,p59

どんなことをするときにも、予想をたててからやると、失敗してもなぜ失敗したのかわかって、早く成功することができるようになるのです。

●記憶には「失敗がつきもの」

 「失敗」を重ねて、記憶が成立する。池谷は次のように書いている。

 

 

4可塑性ー脳に記憶ができるわけ

 池谷(2001)p.130

 4-2失敗は成功のもと

 ひとつの成功を導きだすために多くの失敗が繰り返される。

 数多くの失敗がなければ正しい記憶はできない。

 

記憶とは失敗と繰り返しによって形成されて強化されるもの。脳の記憶は、いわば「消去法」。

「これはだめか」「あれもだめか」で消していく。

 

覚えるは「努力」と「根気」。

 

 コンピュータは1回で完全に記憶する。

「手順を分解する」段階をふんで学習、←コンピュータと違う。

 脳のネットワークは、網の目のようになっている。その網の目がからみ合うことで記憶が生まれる。

 池谷(2001)4-6 「人間が人間である理由」

コンピュータは「アドレス方式」各小部屋は独立している。

 脳は、いろいろとやり繰りしながら、神経回路を使い回す。

 →ひとつの神経回路にはさまざまな情報が同時に雑居、←情報は互いに相互作用

 

 ネズミに餌をやる実験がある。それは人間がどうやれば記憶できるかを表している。

[ネズミの実験]

 (1)レバーを押すとエサが出る。次の段階では

(2)音楽が流れたときだけレバーを押すとエサが出るようにする。

 それをネズミは、試行錯誤しながら覚える。

 そのときに段階をふまないといけない。最初から(2)にすると、いつまでたっても覚えられない。

 

 

●「6-11記憶することは人の運命」

 目や音などの情報は、「側頭葉」に集められます。それが「海馬」に流れてきます。ただ「海馬」が働くには「閾値」があって、少ない電位では情報は通過してしまい、海馬は拾いあげません。

 

 拾い上げられた情報は、海馬で処理されて側頭葉に戻されます。

 さらに側頭葉から大脳皮質へと送られて、長期記憶になっていきます。

 そんな「海馬」と「記憶」の関係を、池谷(2001)は次のように書いています。

 

「6-11記憶することは人の運命」

 世の中には、おもしろいこと、わくわくすること、不思議なことなど、こちらから扉を叩いてみたくなるような魅力的な事象に満ちています。

 そうしたものにアンテナを巡らせながら、人生を楽しむことが人間らしい生き方であると思います。

それは人間の「権利」なのです。

....人生を楽しむことはまた人間に課された運命でもあると私は思います。

[要約].......................................................................

はじめに

 神経細胞(ニューロン) 1000億個、シナプス1000兆個

 

1脳科学から見た記憶

 1-1タクシー運転手の記憶力

 1-2神経細胞が想像する脳

   1906ノーベル賞 

    ゴルジ(シナプスすきまなし)カハール(すきまあり)

 1-3 人に個性があるわけ

個性→経験、記憶、私が私であるために

 1-4 神経細胞を守るために

 神経細胞はダメージに弱い、

 使わない細胞が死ぬ→意識して使えば死なない

痴呆症 1/2脳血管がつまる、アルツハイマー

 1-5 タクシー運転手の脳は膨らむ?

2000年マグワイア、タクシー運転手神経細胞20%増殖

 1-6 鍛えた分だけ記憶力がつく

マグワイア、海馬(直径1cm長さ10cm)

 1-7豊かな環境と豊かな記憶

1997ゲイジ「刺激の多い(玩具を入れて育てた)ねずみ」→神経細胞15%多い

 1-8モリスの水迷路試験 

    「刺激の多いねずみ」2日間で覚えた、ふつうのねずみ5日間

記憶力は鍛えられる

 1-9常識と科学

ガリレオが言った「どうして君は他人の報告ばかりで、自分の目で確かめようとしないのだ」と友人に切々と語った(p.36)

 

2記憶の司令塔「海馬」

 2-1記憶の不思議

 2-2記憶の司令塔「海馬」

1957 HMのケース、海馬を除去、新しいことが覚えられない(順行健忘)

1986 RB心臓病で海馬が死ぬ

 2-3進化の歴史が認めた記憶の料理人

 海馬は、下等な動物でもよく発達している、海馬が記憶(料理)を作っている

 2-4時計回りの金太郎飴?

 見たり、聞いたり、触ったり、嗅いだりして得たものごとに関する情報は、処理されながら側頭葉に送られます、その結果、いま目の前にあるものごとを認知できるようになります、そして、その情報は海馬に

 2-5リストラか過労死か

 歯状回の細胞は、増減のスピードが速い、入れ替わる。過酷な仕事をしているから

 歯状回の細胞が減ると記憶力が減る、減らさないこと

 2-6なぜか7個しか覚えられない

「短期記憶」30秒から数分、必要なときに必要な分を一時的に蓄える

 2-7思い出せないのに記憶?

「長期記憶」1エピソード記憶 2意味記憶←きっかけが必要

        ↪︎顕在記憶    ↪︎潜在記憶  What isで説明

 2-8勘違いも記憶?

↪︎潜在記憶、「体で覚える」手続き記憶 How toで説明

「入れ知恵記憶」ポパイがほうれんそう、子供たちが食べる(かんちがい)

  「スクワイアの記憶分類」

 1短期記憶

 2長期記憶  

(1)エピソード記憶 (2)意味記憶 (3)手続き (4)プライミング

 ↪︎個人の思い出 ↪︎知識   ↪︎体で覚える ↪︎勘違い,サブリミナル

 2-9記憶は歴史の階層

 コリンズ、キリアンの実験

「エンゼルフィッシュは呼吸する?」と問う

 1魚 2生き物だ 3呼吸する

       階層

1手続き記憶(潜在) 2ブライミング(潜在) 3意味記憶(潜在)→臨界期3才,絶対音階 4短期記憶、丸おぼえ(顕在)  5エピソード記憶、論理だった(顕在)

         ↪︎10才まで    ↪︎痴呆、5から消えていく

 

 2-10海馬は何を記憶するのか?

HMは5エピソード記憶が覚えられない、1手続き記憶はOK

海馬に記憶が留まってきるのは1か月程度

 2-11記憶の倉庫

  側頭葉(情報)→海馬(ふるい、記憶するもの、しないもの)→側頭葉

 2-12「運命」を刻む海馬

脳波(θ波)は海馬が「今までに出会ったことがないもの」発せられる←記憶しようと

 2-13海馬は地図?

暗闇でもライトがつく(場所ニューロン、アンモン角の錐体細胞)

さまざまな感覚情報が海馬へ、そこで統合される→エピソード記憶

 2-14子供には海馬が完成していない?

語学同時バイリンガル、親に毛づくろい→海馬が育つ、硬いもの、社会性、運動、ダイエット

 

3脳とコンピューターはどちらが優秀か?

 3-1ネットワークを作る神経細胞

 3-2神経回路と電気回路

 3-3信号の交換駅「シナプス」

 3-4シナプスの仕組み

 3-5一方通行のシナプス

 3-6シナプス電位と活動電位

 3-7シナプスは考える

慎重さこそ神経細胞に備わった大切な性格

 3-8シナプスという名の精密機械

「生命」→生命は物質であり、この物質こそ生命の素、

生物とは物理化学の法則に素直にしたがう構造物

 3-9脳とコンピューターはどちらが優秀?

脳は限られた数の神経細胞だけで、十分な量の記憶を素早く行う。

コンピュータとは、情報の扱い方、処理の仕方がまったく異なる。

 

4可塑性ー脳に記憶ができるわけ

 4-1「青」進め「赤」止まれ

条件反射

 

 4-2失敗は成功のもと

 ひとつの成功を導きだすために多くの失敗が繰り返される。

 数多くの失敗がなければ正しい記憶はできない。記憶とは失敗と繰り返しによって形成されて強化されるもの。脳の記憶は、いわば「消去法」。覚えるは「努力」と「根気」。デューイの犬

     コンピュータは1回で完全に記憶する。

 「手順を分解する」段階をふんで学習、←コンピュータと違う。 

 

 4-3脳はいい加減なヤツ

脳→ファジー記憶、記憶には厳密さよりも、曖昧さや柔軟性が必要

   デューイの犬、似ていることが大切。

  「似ているものを覚える」には「似ていないもの」を削除、消去法

生きる→同じ状況は二度と来ない。

ソシュール

「意味や言語は人間関係や社会構造から生まれた相対的な差異の構造を反映」

 脳は「その範疇における相対的な文脈の連辞関係を記憶している」

 本能は絶対的、下等→厳密、高等→柔軟

 人間は忘れたり間違えたりする、弱点を補う→コンピュータや文字の発明

 

 4-4道を究めて達人になる

記憶の3か条 1何度も失敗を繰り返して覚えるべし

2 きちんと手順を踏んで覚えるべし

3まずは大きく捉えるべし

 4-5脳が記憶するとき

「脳の可塑性」、何かのきっかけが思い出す

 4-6人間が人間である理由

 脳は緻密な神経回路からなり、それを使って情報を管理する。回路のつながり具合によって、どう情報が処理されるかが決定。「記憶することは神経回路が変化すること」

 コンピュータは「アドレス方式」各小部屋は独立している。

 脳は、いろいろとやり繰りしながら、神経回路を使い回す。

 →ひとつの神経回路にはさまざまな情報が同時に雑居、←情報は互いに相互作用

 ←記憶があいまい、人間性、連想、創造、脳は曖昧に、乱雑に記憶をたくわえる

 

 4-7路線図か時刻表か

どうやって脳は回路を使い回すか、シナプル可塑性(柔軟性)だ!!

 4-8ある哲学者の記憶(デカルト)

思い出す→電位が通過した痕跡を探す→シナプスにたくわえられた記憶

 

 

 4-9ヘブの法則

  記憶 

1協力性(覚えようとしないと覚えられない) 2入力の特異性 3連合性(語呂合わせetc)

               ↪︎脳の神経細胞の動きで説明できる     

 4-10夢かまことか

シナプス可塑性!!!!!  (途中の切れているところ)

 

5脳のメモリー「LTP」

(シナプス結合の増強が長期的に持続Long term potentietion)

 5-1LTPの発見が世界を変えた

1973ブリエ、レモが海馬でシナプス可塑性の発見、θ波で与えると最も効率良い

 5-2耳をそばたてるLTP

強い刺激が来ると、それまであまり活動していなかったシナプスが突然活発に

   その後もずっと活発な状態を維持、グルタミン酸

 5-3LTPこそが脳の記憶なのか?

 マークバンクス1993, 物覚えのいいネズミLTPが多い

 ケルトン ネズミ、学習がすすむにつれシナプス電位(後)が高くなる

            神経細胞が学習に使われると、シナプスの伝達効率がよくなる

モリス LTPが作動しないと記憶ができない

利根川1992 カルシウムセンサー欠如の動物

 5-4 SFの世界が現実になった日

1998小川洋一,金魚海馬がない、記憶する→LTPが神経回路に誘導されていた

 5-5鏡の世界のLTP

  (LTPの火消し役)周波数の低いテタヌス, LTDが出る→LTPを消す

(LTPの脇役)相対的にLTPを目だたたせる

 5-6情動が作る思い出

ストレス,アルコール→LTPが形成されにくい。(マクロな研究)

 喜怒哀楽(情動)扁桃体が活動すると海馬のLTPが大きくなる

 ふだんだったら記憶されないような些細なことも、情動がからむと記憶される

扁桃体の神経活動はLTPをおこすテタヌスの閾値を下げる。記憶→思い出

  動物は、扁桃体(危険!)が記憶に繋がることが重要

 5-7夢の続き

 

6科学的に記憶力を鍛えよう

 6-1覚えられないのか、覚えないのか

  「物忘れがひどい」単に初めから覚えていない

 6-2無駄な勉強法

知識の階層は成長とともに形成、臨界期(絶対音階, 言語, スポーツ)

年齢に合った記憶の仕方、歳をとったらエピソード記憶

 6-3記憶のビタミン

 θ波を意識して発生させる、覚えたい対象に興味を持つ、なるほど、うんうん,情熱

 刺激の多い環境→1 LTPが増える 2 歯状回の顆粒細胞が増える, 低下させてはダメ

  ダビンチ「食欲がないのに食べると健康を害する、欲求がないのに学習すると記憶を損なう」

 6-4心の余裕は記憶に毒?

 サンシモン「感動する心を失ってはいけない。感動する心を失ったら何事もなされない」

 扁桃体,不安や恐怖→テスト直前、一時的に記憶力を高める、でもストレスに弱い

 ×余裕あるスケジュール、◎マンネリ化せず、適度な緊張感を保ちながら勉学に励む。

 6-5記憶力を増強してストレス解消?

 ヘンケ、海馬があるとストレスに慣れる、胃潰瘍が小さくなる。

 記憶力が高いと、危機に直面しても、受けるストレスが少ない。

 6-6なぜ東大に合格できるのか?

 ヘブの法則3「連合性」法則性をつかむ、理解して覚える、声に出す、語呂合わせは言葉の意味、できるだけ連合させる「緻密化」、自分の経験とむすびつける、

 「エピソード記憶」にする→友達に説明してみる、アーノルド「自分で納得のいかない限り人を納得させられない」

 「エピソード記憶」→「意味記憶」

 6-7勉強はほどほどに

「エビングハウスの忘却曲線」忘れたい→他のことを追加して記憶する記憶の干渉

復習、海馬の保存期間は1か月、→側頭葉に「これを記憶せよ」

「発芽」によって神経回路が作られたら、長い期間安定する

 6-8寝る児は育つー夢の不思議

浅い眠り(レム睡眠)        深い眠り(ノンレム睡眠)

  ↪︎夢、体をよく動かす、体が休む、一種の記憶の再生 ↪︎脳が休む

1994マックノートン「起きているとき活動した場所ニューロンは、レム睡眠で活動

    夢は昼間あったことを思いおこす行為

ステックゴールド「覚えた日に6時間以上寝ることが欠かせない」→レミニセンス現象(追憶)

毎日コツコツと

 6-9平均的人間はダメ人間

 脳は失敗を繰り返しながら記憶を作る、試行錯誤するほど記憶が強化

 いくらがんばっても記憶には曖昧が残る

失敗して反省すること、次に活かす、ファジー率の高い人間の脳はすばらしい

 まずは大きく事象をとられ、その後細部を区別する

 手順を踏む

 脳が記憶するとき、事象だけではなく、事象の「理解の仕方」も同時に記憶している,法則性

 ひとつのことを記憶すれば、自然と、ほかのことの法則性を見出す能力も身に付く

 ひとつの強化をマスターすると、他教科の成績もあがる

 6-10天才の秘密

 「理解の仕方を覚える」→手続き記憶(最下層の記憶)無意識のうちに法則性を見抜いている

 天才的と思える能力は、潜在的な手続き記憶が基礎、

 成績は、べき積の効果、努力の継続、

 6-11記憶することは人の運命

「好奇心」「努力」「忍耐力」「ちょっとしたコツ」、結局は「やる気」

世の中には「おもしろい」「わくわくする」「不思議」こちらから扉を叩きたい魅力的な事象

 アンテナを巡らせながら、人生を楽しむことが人間らしい生き方である→人間の「権利」

 サルトル「人間は自由でないことを選ぶ自由はない」人生を楽しむことは人間に課された運命

 結論「本人の意欲が大切」

 

7記憶力を増強する魔法の薬

 7-1記憶力のドーピング    カフェイン

 7-2賢いネズミの誕生 遺伝子操作

 7-3肝臓と記憶の不思議な関係 K90は肝臓に多い

 7-4記憶力とは何か

 7-5「アルツハイマー病」 アセチルコリン

 7-6楽しく酒を飲みましょう

 

8脳科学の未来

 8-1豊かな将来

 8-2他人の脳をもらう

 8-3科学が「心」を理解する

   記憶「1獲得」「2固定」「3再生」の3段階、「3再生」を脳科学はほとんど解明していない

再生のメカニズム

     「意識」 1感情が深く絡む  2記憶しようと意図する

↪︎前頭葉→側頭葉

 8-4なぜ海馬なのか

医療現場から海馬を見ると疾病

強い刺激が来ると、それまであまり活動していなかったシナプスが突然活発に

   その後もずっと活発な状態を維持、グルタミン酸