⚫︎3分で読むウェゲナー『大陸と海洋の起源』(1929, 4版)
西村寿雄さんは『ウェゲナーの大陸移動説は仮説実験の勝利』(文芸社.2017)という本を書いています。
ウェゲナーは1915年に「大陸移動説」を唱えるのですが、それが広く認められるのは1960-70年代でした。私(井藤)が大学に入学したのは1972年ですが、その頃となりの地質学部の先生たちは「大陸移動説は認めない」と言っていました。西村さんの本は、そうした「大陸移動説」の60年間にわたる歴史を書いています。
それではウェゲナー(1880-1930)の『大陸と海洋の起源』(1915初版,1929第4版)という本自体はどういう内容になっているでしょうか。「仮説・実験」という展開(本の最初に「仮説」を立て、そのあとで「実験」していく展開)になっているでしょうか。
アルフレート・ウェゲナー(1880-1930)、ドイツの気象学者。写真はwikipediaより
[問題]
ア. 「仮説/実験」の展開になっている。
イ. 「仮説」「実験」の展開にはなっていない。
それではウェゲナーを読んでみましょう。3分で読めるでしょうか。[問題]の答えは、3分後に聞きたいと思います。
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第1章 大陸は移動したのか?その考えは私が最初なのか??
世界地図を眺めながら大陸移動説を思いついた。「どうして大西洋の両岸の海岸線の凸凹はよく合致するのか」(1910年30才のとき)
調べてみると他にも「大陸移動」の考え方はあった。だが、だれもそれが事実かどうか、真正面から調べている人はいない。
第2章 3つの仮説
どうやって大陸と海洋は現在のようになったのか。
1 地球収縮説(地球は冷えて縮んでいる)
1-1陸橋説 1-2大西洋には大陸があった
2 永久不変説(過去も現在も同じ)
→「古生物が同じこと」を無視した地質学者の議論。
3 大陸移動説
ここから多くの人の研究を紹介して、3つの仮説のうち「大陸移動説」が正しいという検証をウェゲナーはしていく。
現在『大陸と海洋の起源』の日本語訳には2種類ある。
1 都築秋穂・紫藤文子訳、岩波文庫1981
2 竹内均訳、講談社1975(初版)
その2冊を読み比べながら、西村寿雄(2017)と岩波文庫版「解説」をたよりに『大陸と海洋の起源』の概略を紹介する。
以下、ウェゲナー自身による図以外は、西村寿雄(2011)「大陸は動いたに違いない」『科学読み物プラン集』による。
仮説1は、古生物学者、化石の類似の説明。仮説2は、地質学者。この章でウェゲナーは1と2の仮説を、かんたんに批判している。
1-1陸橋説、3本あった!?
1-2講談社版p.28より
1-2真ん中に大陸があった?
ここから「大陸は移動した証拠」をあげていく。
第3章 測地学的な議論
グリーンランドはヨーロッパから遠ざかっている。1年間に数十メートル。 インドも、タスマニアも、アイスランドも動いている。
(注:現在の測定で、グリーンランドの移動は1年間に6cm以下)
第4章 地球物理学的な議論
「大陸」と「深海底」とは違った物質からできている。大陸はカコウ岩、深海底は玄武岩。
なぜ大陸は動くか。対流があるから。岩もそれなりの粘性がある。
→当時、「(地球内部の)対流説」を主張する学者が何人かいた。ウェゲナーは、それを支持している。
第5章 地質学的な議論
アフリカと南アメリカとで地層がつながる。大西洋の真ん中が盛り上がっている。インドは北進してヒマラヤ山脈ができた。
「アルガンの研究による図」『大陸と海洋の起源』講談社版,p.154より
当時は「幻の大陸」の話がまじめに議論されていた。
大西洋→アトランティス大陸 太平洋→ムー大陸 インド洋→レムリア大陸
第6章 古生物学的、生物学的な議論
南アメリカとアフリカとで同じ化石が見つかる。また、現在の生物を見てみても、いろいろな類似点は「大陸移動説」を裏付ける。
それは、陸橋説(2つの大陸間に地面があった)でも説明できるが、2点の気候差は当然、動物に差異を与えるはず。
第7章 古気候学的議論
昔の氷河のあとがずれている。石炭は赤道地帯にできるはずなのにずれている。どう説明するか。
「極移動(南極、北極がずれたこと」と「大陸移動」で説明できる。
第8章 大陸移動と極移動の基礎
混乱を防ぐために「大陸移動」を定義する。「大陸移動」には2つの動きがある。2つの力が働く、「西へ動かす力」と「南極、北極から遠ざける力」。
「極移動」その2つとは違う力。自転軸が移動するから。
第9章 なぜ「大陸移動」は起こるのか
1遠心力(地球の自転)
2 対流
現在のところ、理論的にはよくわからない。
←この章では、「大陸移動説」への反論に対する細かい議論が多い。それらは省略する。定義は「大陸移動」も「極移動」も、「地球表面の相対的な動きで、内部の状況は別」ということ。
最後の10,11章は補助的な章、付け足し。
第10章 大陸に関して「大陸移動説」から考える
山脈、断層、地溝帯、日本列島のような弧状列島は、なぜできたのか。空想をめぐらせる。
第11章 海底に関する補助的観察
太平洋、大西洋、インド洋の違い。海の深さと海底堆積物。空想をめぐらせる。
←10章, 11章は、ウェゲナーが空想をめぐらせている。岩波文庫の解説では「多くは誤り」「珍説」という言葉が並ぶ。しかし、それはウェゲナーがいかに多くの予想をたてたということだろうか。はずれてもいいので、大胆に。
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⚫︎ウェゲナーの議論は「仮説/実験」になっているか
ここまで、3分で読めましたか?
私にとって「なかなか難しい本」でした。「大陸移動説への反論」に対抗する部分が多くて、読んでいてもなかなかイメージが浮かばなかったのです。そんなところは(3分では無理なので)省略してあります。
さて、最初の[問題]です。ウェゲナーの議論は「本の最初に「仮説」を立て、そのあとで「実験」していく展開)」になっていたでしょうか。
最初に、3つの仮説があげられています。その後の章は「大陸移動説が確かである」ことの立証にあてられています。
ウェゲナー自身は、次のように書いています。
(ここまでの議論の)方法は帰納的であった。帰納法は多くの場合において自然科学が用いざるを得ない方法である。たとえば落下運動・惑星の運動に関する法則も、最初には単なる帰納すなわち観察によって得られたものである。その後でニュートンが現れて、万有引力に関する1つの公式からそれらの法則を導き出した。これは自然科学においてくりかえしくりかえし使われるふつうの方法である。
大陸移動説におけるニュートンはまだ現れていない。ニュートンがまだ現れていないことを気にする必要はない。大陸移動説はまだ若く、しばしば疑いの念をもってみられてさえいる。.......まだ長い時間を要するかもわからない。(第9章の冒頭)
さらに最後の10,11章は(飛ばし読みをしながら)「空想の連続」という印象を持ちました。
「科学的認識は仮説実験のみ」という板倉聖宣の言葉通り、このウェゲナーの議論も「仮説/実験」であった、と私は思うのですが、みなさんはどう思いましたか。