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ある小学校の教頭先生の話

1 あなたは小学校の教頭先生です。

 ある日の午後、校内を歩いていたら、花壇にガラスのかけらが落ちてました。授業中なので、まわりにだれもいません。「良かったな」と思いました。さて、あなたならそれからどうしますか?

[問題1]

 ア.  何ごともなかったので安心して、職員室でコーヒーを飲む。

 イ.  何かする。(何をするか→                         )

 


 2 教頭先生は、念のため、保健室をのぞいてみました。養護教諭の先生に聞いても、だれもけが人は来ていないそうです。「良かったな」と思いました。

[問題2]

さて、あなたならそれからどうしますか?

 ア.  何ごともなかったので安心して、職員室でコーヒーを飲む。

 イ.  何かする。(何をするか→                         )

 

 教頭先生は、上を見てみました。どうも3階の6年生の教室からガラスの破片は降ってきたようです。

 6年生の教室に行って担任の先生に話を聞くと、2人の子がけんかして、窓ガラスが割れたらしいのです。2人ともけがはないようです。「良かったな」と思いました。

[問題3]

さて、あなたならそれからどうしますか?

 ア.  何ごともなかったので安心して、職員室でコーヒーを飲む。

 イ.  何かする。(何をするか→                         )

 

4 教頭先生は、念のため、緊急放送をかけましたけが人はいないか、頭や背中にガラス片がついている子はいないかを、担任の先生に聞いてもらいました。

 その結果、6人が保健室に来ました。ガラス片で頭や手などを切っていたのです。他に数十人の子の服や頭にガラス片がついていたこともわかりました。

 さらに、担任の先生には「家庭でもガラス片が体についていないか」を

調べてもらうことにしました。

 翌日、複数の保護者から、「うちの子の服にガラス片がついていた」という話も届きました。

 こうしてこのガラス事件は何ごともなく終わりました。

⚫︎「地震避難 何が生死を分けたのか」

5 NHK特集『地震避難 何が生死を分けたのか』という番組がありました(2021年3月6日放送)。

 その番組では、「逃げ遅れた人」と「生きのびた人」とは、何が違ったかを検証しています。同じ区域に住んでいても、生死を分けた何かがあったのです。

[問題4]

 「逃げ遅れた」「生きのびた」の違いは、何だったでしょう。その違いは?

 ア.  研究者によって、もう解明されている。💮

 イ.  まだ解明されていない。結局よくわからない。❌

 

⚫︎みんな思っている。違いは「行動するか」「行動しないか」

6「生きのびた人」と「逃げ遅れた人」との違い。それは何だったでしょう。

1 「生きのびた人」漁師さんの証言

 ラジオで大津波が来ることを知り「津波が来るから早く逃げろ」と近所の人に大声で叫んだ。「みんなが知り合いだから、だれが声をかけてもおかしくないんです」

2 「逃げおくれた人」の場合

 聞き取り調査をした片田敏孝さん(東京大学特任教授)は、こう言います。

避難というのは難しい。みんな「逃げなければいけない」ことはわかっている。だけど「よし逃げよう」というところまでいたらない。つまり「逃げないぞ」と意思決定をしているわけではなくて、「逃げよう」という最後の意思決定ができていない状態の中で、一般には「逃げない状態」が地域に広がってしまう。

 その番組を見た都内に住む女性は、ブログに感想を書いています。

 ➡️【震災10年】TV「津波避難何が生死を分けたか」に親子で考えさせられる

⚫︎逃げのびた集団の中には「おおかみ少年」がいた

7 生死を分けたのは

  その番組は「逃げろ」と声をかけた人がいたか、いなかったかが生死を分けた、と結論づけます(避難のカスケード(滝の流れ)。

 小学校の先生たちの声がけで、生きのびた女性は、こう言います。

 声がけがなかったときまでは、皆さんぼうぜんと立ち尽くし、どうしていいかわからなくて、あのときの彼女の声はすとんと          「逃げろ! 」

入ってきたんですよ、逃げなきゃなと。                       

 

⚫︎もし自分が大川小学校の先生だったら、どうしたか。

「石巻市立大川小学校1年後の姿」撮影:Ishiyamakazuhiro ➡️wikipedia「大川小学校」

 宮城県石巻市大川小学校では、東日本大震災の津波で、児童74名と教師10名がなくなった。私は1年後、この現場を見たとき、私の心に「自分だったらどうしただろう」という思いが湧き起こった。

[問題5]

 もしあなたが大川小学校(宮城県石巻市)の教師だったら、どうしたと思いますか。

 ア. なんとかして裏山に多くの児童を登らせていた。

 イ.  他の教師とともに、児童を連れて避難場所に行っていた。

 

 

 この問題の答えはありません。本当は「ア」を選びたかっただろうけれど、本当にそれができただろうか、よくわからないのです。

 

⚫︎防災ゲーム『クロスロード』

 『クロスロード』は、阪神大震災のとき、実際に起こった問題をゲームにしたものです。避難場所で、避難した人の多くはあたふたするだけで、自分から行動できない、行政の人に任せるだけ。そのゲームでそういう状況を疑似体験できます。➡️クロスロード

 ともかく思っているだけでなく行動すること。

 私は、ある教頭先生の話を聞いたとき、そう思いました。

⚫︎もう一つの「ある教頭先生の話」

 ガラス片事件は、「めでたし、めでたし」で終わりました。でもそんなうまい話ばかりではありません。次のような展開だったかもしれません。

  ↓

「結局、何もなかった。教頭先生の空騒ぎだった」

 放送をかけ、家庭にも連絡したのですが、何もかわったことはありませんでした。学校の職員たちは、うわさ話をします。

「本当に、教頭先生は、こうるさいよね」「あわて者だし」「困ったものだ」

[問題6]

  こんな場合、あなたが教頭先生ならどうしますか。

ア.  無視する。

イ.  落ち込む。

 

⚫︎「おおかみ少年」は、本当にうそをついたのか

 イソップ物語「おおかみ少年」の筋は、「少年が2回、うそを言った。3回目に本当のことを言ったのにだれも信じてくれなかった」

 この少年は、1回目、2回目は、本当にうそをついたのでしょうか。

 


 今、香港やミャンマーで、民主化運動した人たちが拘束されたり、殺されたりしています。かんたんに「勇気を出して行動しよう」とは言えないような気がします。

 やはり「何をするにも、仮説・実験」ということでしょうか。