· 

1分でわかるルクレティウス

ルクレティウス『宇宙をつくるものアトム』の要約

 

 

ルクレティウス「宇宙をつくるものアトム(事物の本性について)」を読みました。

感動しました。おもしろかったです。ルクレティウスは、古代ギリシャのエピクロス の哲学を、ラテン語で歌のような詩にしています。

 

日本語訳をそのまま読んでも長いし眠くなります。全体像もつかみくにくです。

そこで歌にしてみました。歌いながら意味することをつかんでもらえるとうれしいです。

  伊藤善朗作曲『何をするにも仮説実験』の曲で(「権兵衛さんの赤ちゃん」でもOK→)

 

歌ってみよう「何をするにもエピクロス 」

1巻

すべてのものは原子から、原子の間は、真空だけ

神さま、関係ありません、無から何も生まれません

何でも原子にかえります、永久不滅でなくならない

くっつき、はなれて、運動して、宇宙も原子でできてます

何をするのも仮説実験、原子が見えなくても また実験

 

2巻3巻

すべての原子は重さあり、原子の大きさ、様々で

熱いも寒いも感覚は、原子の動きで決まります

体は原子でできている 死んで原子に戻ります

心も魂も原子から 動き回れば、健康です

何をするのも仮説実験、原子を想像して また実験

 

4巻

目でものが見えるのは、物からはがれる粒とどく

そんな感覚いっぱいで 命も喜びもいっぱいに

恋も愛も自然です 人間なんだ当たり前

ときの感情流されず 本質見つめて行動を

何をするのも仮説実験、原子はいろいろ、また実験

 

5巻6巻

地震も洪水も天体も 法則に従い、神、知らぬ

言葉に法律、文字、暦、世界の進歩も、神、知らぬ

ちっぽけなことこだわるな、全宇宙に比べりゃ無にすぎない

エピクロスが書いたこの事実、知れば幸せ、不安なし

 

何をするのも仮説実験、どんな神様より エピクロス

 

a「物事の本性についてー宇宙編」(岩田儀一、藤沢令夫訳) 世界古典文学全集版1965、b板倉他編『少年少女科学名著全集4』ルクレチウス「宇宙をつくるものアトム」(国分一太郎訳)の2冊から要約しました。

 なおbは、部分訳です。そこで訳されている部分は「緑色」にしてあります。

カエサル(BC100-BC44)

ルクレティウス(bc99-bc55)

2人はほぼ同時期の古代ローマの人です。

 

この歌は「権兵衛さんの赤ちゃん」でも歌えます。5フレーズを次のような感じで歌ってください。

1権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいた 権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいた

 

2権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいた そこであわててシップした

 

3権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいた 権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいた

 

 

4権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいた そこであわててシップした

 

権兵衛さんの赤ちゃんがかぜひいたそこであわててシップした

 

 

 

 

 

 

ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いた壁画より「アテナイの学堂」。そこにはソクラテスらと並びエピクロス の姿も左端中央に。


10分でわかるルクレチウス

 『宇宙をつくるものアトム(事物の本性について)』をもう少し詳しく要約しました。

  主に、岩田、藤沢訳1965を使って作成しました。

 

1巻(物質と空間)

 ・エピクロス は人間を迷信から解放する。

 ・無から何も生まれない、神意であっても何者も生まれない。

 ・物は無にはかえらない

 ・目に見えない物体が存在する

 ・真空が存在する。存在するのは物体と真空だけで、第3の存在するものはない。

 ・物体は、アトムで構成される。アトムは永久不滅である。

 ・ものが「硬い」「柔らかい」は、アトムと真空によって決まる。

 ・アトムは、もうそれ以上、分解できない。

 ・4元素説(火、空気、水、火)、火の1元論は、感覚に逆らうものである。

 ・宇宙は無限の原子と無限の空間とで成る。

 

2巻(アトムの運動と形)

 ・何と楽しいことか。自然の形象と理法に従い、暗闇を追い払い、光の中に身を置くことは。

 ・アトムの「運動」「形」、アトムは「重さ」のために下に落ちる。アトムは動き回る。

 ・アトムの運動は偶然、わずかな逸れがあるのみ。運命は存在しない。

 ・甘いものは丸いアトム、苦いものはとんがったアトム、形が性質を決める。

 ・アトムは、アルファベットのように組み合わさって、多くのものができている。

 ・その組み合わせにはルールがあるので、やたらめったに珍獣が生まれたりしない。

 ・アトムは、それ自体に、色、熱、音、香りなど2次的性質を持たない。

 ・感覚も、アトムの運動によって起こり、ひとりでに感覚をもつことはできない。

 ・アトムが動き回ることで無限の宇宙はできている。そこには他の世界もたくさんある。

 ・世界が創造されたのも万物の母たる自然による。アトムが偶然に動き回った結果だ。

 ・体は、出るものが入るものより多くなったとき老衰して死を迎える。世の中も同様。

 

(この巻では世界を創造したのは神ではないとする。ならば何が世界を動かすのか。それは、アトムの偶然の動き回り、そしてたまたまの偏り。そうした中で法則のようなものが生まれ、珍獣も生まれないし、奇形も次の世代を残さない。これも「何をするのも仮説実験」と言えるのはないか。そう思っている)

 

3巻(生命と精神)

 ・ギリシア民族の栄光エピクロスよ、あなたの足跡に私の足をおく。あなたに習う。

 ・死や地獄への恐怖が人を不幸にする。心も魂も、体で守られ、人が死ねばなくなる。

 ・心(精神)は体の中央に位置し、魂は身体中に行き渡る。

 ・心と精神は、微細なアトムで作られる。

 ・心と精神は、熱と風からなり、それに空気と第4の原子が伴う。

         ↳交換神経? ↳副交感神経?

 ・体から離れて魂は存在しない。(魂だけ天国,地獄に行くことはない)。

 ・心は体とともに成長し衰え、体が亡くなれば魂もなくなる。

 ・不死はないし、魂だけ次に移ることもないし、魂だけ後から体内に入ることもない。

 ・死は必至であり、好きなだけ生きることを願うは無意味。

 

(この巻では、心・魂について、くどいぐらい繰り返し述べられている。それは、いかに当時の宗教が死を恐れさせ、天国・地獄をもとに生き方を決める人が多かったからであろう。全体を通して訴えられているのは「いつ死んでもいいように日々を健全に生きることの大切さ」である)

 

4巻(感覚と恋愛)

 ・ムーサ(ミューズ)の花冠を私の頭に飾る喜びは、エピクロスの教えを伝えられること。

 ・視覚は、物の表面から引きはがされた天幕のようなアトムが目に入ること。

 ・影とは、錯覚とは、光と暗闇とは、鏡とは、いずれもアトムの仕業である。

 ・味覚も臭いも色も、柔らかいアトムは甘く、荒々しいアトムは辛く突き刺さる。

 ・感覚は、信頼すべき。

 ・像が心に打つと、心は像を見る。眠り、夢。

 ・欲望のために胸をやく恋愛は避けるべきである。盲目な恋は、財産も名声も失う。

 ・恋に落ちると、恋人を美化するようになる。

 ・恋の喜びは相互的である。

 ・遺伝は、父と母のアトムが伝わること。受胎を神に願っても叶うものではない。

  ・慣れると、つれあいが良く見えてくる。習慣は愛を生み出す。

 

(4巻では、人間にとって切実な問題を扱う。心が病むと、神に頼りたくなる。病気だったり、つらいことがあったり、恋の悩みだったり。そんな心の問題も理性的に考えれば解くことができる。けっして、神が結論を左右できるわけではない)

 

5巻(世界と社会の進歩)

 ・エピクロスこそ、我々を大きな暗闇から明るい光の中に導いた。この人こそ神である。

 ・大地、空、海、星、太陽、月、みんなアトムの集合でできる。神の意志ではない。

 ・海、陸、空も長い年月で作られ、壊れていく。永遠ではない。

 ・大地が作られた歴史。混沌としたアトムの動きの中で形作られた。

 ・大地から植物、動物が誕生、成長した。奇形は誕生しても淘汰される。

 ・ケンタウルスのような怪物は架空のもの。

 ・動物の中での人類は荒々しかった。社会の進歩、原始生活、法律、神々への崇拝。

 ・真の敬虔とは、ゆるぎない心をもって万事を眺めること。

 ・金、青銅、武器、戦争、鉄。栽培植物と耕作を始める。

 ・歌い、笛をふくことは心を柔らげる。金や素晴らしい飾りのある服は必要ない。

 ・暦、文字を作り、学問は光の岸辺に現れた。

 

(5巻では、たしかに「地動説」ではないものの「大地も星もみんな同じアトムでできる」と論じる。「神が大地を作った」という宗教を「昔の宗教」と書く。そうした考えは、ガリレオに影響を与え、『天文対話』につながる。

 とはいうものの、ルクレティウスは「無神論」ではない。「神は全能ではない。何を生じえ、何を生じえないのか」「神それぞれは、確定した限界を持っている」86-91と)

 

6巻(気象・地質と病気)

 ・エピクロスは指し示した。心の恐怖と暗闇を取り払うものは、自然の事象と理法だ。

 ・天変地異の原因への無知が、万事を神々の支配にゆだね「昔の宗教」に連れ戻される。

 ・気象(雷鳴、いなずま、竜巻、雲、雪、洪水)地質(地震、噴火)はアトムで説明できる。

 ・目で見えるすべてのものからアトムが出ている。磁石もアトムで説明できる。

 ・病気のアトムが生じ、空をかき回すとき、空気が病毒をおびる。

 ・アテナイの伝染病は悲惨。信じる信じないに関わらず神への信仰も威光も重みなし。

 

(6巻は「古い宗教」では神の手中にあると思われていた現象を、すべてアトムで説明している。最後は、アテナイの伝染病で話をくくる。尻切れとんぼのようでもあるが、当時の人たちには、天変地異や病気による死が、何よりも迷信のはびこる大問題だったのであろう)

 

 

 

主な登場人物

古代ギリシア

デモクリトス(BC460-BC370)

     ・アテナイの疫病(BC429)

 アリストテレス(BC384-BC322)

 アレクサンダー大王(BC356-323)

エピクロス(BC341-BC270) 

 

古代ローマ

ルクレティウス(BC99-BC55)

 

 ルクレティウスは、3巻冒頭でエピクロスを讃え「あなたに習う」と書く。つまり、この本はエピクロス 哲学の紹介書と言える。

 エピクロスの著作は「1000以上の本になった」と言われるが、ほとんどすべてが失われた。つまりこの本は、エピクロスの著作(ギリシア語)をラテン語に「翻訳」「編集」したものかもしれない。

板倉聖宣著『もしも原子がみえたなら』仮説社、初版1971, 新版2008

▶️Amazon

●大地平面説 

 ルクレティウスは「大地平面説」

あるいはエピクロス がそうだったのかも知れない。

「大地球形説」は、すでにアリストテレスによって定式化されていたが、4元素説のアリストテレスのかんがえを使いたくなかったのだろう。

「大地球形説」が常識となったのはプトレマイオス(83-168)以降と言っていい。

 この「大地平面説」以外にも、はルクレティウスの本には、現在科学では誤りのことが多い。しかし、その精神は、現代こそ学ぶべきことばかりである。

 

 

●精神(心)と魂

 精神は「脳」魂は「神経, 血液」と読みかえると、現代にも通用する。いや、それ以上に「現代人への人生論」としても傑出しているかもしれない。

 

『パルナッソス山にあるアポローンとムーサたち』 (サミュエル・ウッドフォード作、1804年)wikipedia「ムーサ」より

 

 

ボッティチェッリ『春』wikipedia「プリマヴィェーラ」より。

この絵は「ルクレティウスの描写に由来する 5巻737-740」『1417年、その1冊がすべてを変える』より

 

 

 

 

 

 6巻の最初は「アテナイの繁栄」で始まり、最後は「アテナイの感染症」でしめくくられている。宗教は疫病とともに広がる。「宗教ではなく理性」をルクレティウスの本は、くりかえし訴えている。

 それは2020年に世界で起こったcovid-19のバンデミックにつながるようで、不思議である。


●ちっぽけなことにこだわらず「どの欲望に従うか」を考えて生きる。それが秘訣。

 ルクレティウスの本を読みきって、今いちばん心に残っているのは、6巻の言葉です。

 

空、海、陸を合わせたものも、全宇宙に比べれば無にすぎない。(679)

 

 さらに、それはエピクロス自身の次の言葉につながります。

 

欲望には、1 自然な欲望、2 どうしても必要な欲望、3 むなしい欲望がある。

 どの欲望を受け入れ、どの欲望を拒否するかを「たのしさ」を基準に決めて生きよう。

 吉田秀樹訳(英語からの重訳)「エピクロスの言葉(手紙その2 メノイケイスへ)より」

 

66才になりました。これからの人生を、原子を見ながら、足を地につけて、日々楽しく生きていきたいです。

(参考 : 伊藤善朗「何をするにも仮説実験」)

ときには例外あるけれど 虫さんみんな6本足

空気が入れば水が出て 水が入れば空気出る

背骨があるのかないのかで 分けてく論理の明快さ

回路ができればランプつき 回路ができなきゃ真っ暗け

何をするにも仮説実験 なんとなくばっかりでもまた実験

 

原子の数が変わらなきゃ 重さは決して変わらない

この目に見えるものならば 何でも光を出している

方位磁針が指すところ 気がつきゃ地球も磁石だよ

あのときゃきれいに溶けたのに ほかでは溶けないこともある

何をするにも仮説実験 「討論」なくてもまた実験

 

曲がったキュウリもニンジンも 重心わかれば竿ばかり

作用があれば反作用 すべては「ばね」でできている

俵の数が人の数 人の数こそ世の鏡

侍どれだけ雇っても 法則知らなきゃ勝てません

何をするにも仮説実験 「評価」が1でもまた実験

善意のおしつけ悪意と同じ 法則求めてまた実験