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『宇宙をつくるものアトム』は全訳?

ルクレティウス(紀元前99年頃-紀元前55年)は、共和制ローマ期の詩人・哲学者。エピクロス の思想を詩『事物の本性について』に著した。(wikipedia「ルクレティウス」より、2020.12.28参照)

 

 板倉聖宣さんは、自身が編集した『少年少女科学名著全集4』(国土社,1970)の中に、「宇宙をつくるものアトム」としてルクレティウスのその本を収録しています。児童文学者の国分一太郎さんが編訳者です(以下「板倉版」と記す)。

 ルクレティウスのその本は『1417年、その1冊がすべてを変えた』という本があるように、世界の歴史を変えた本です。

 

 私の手元には2つの訳があります。岩波文庫版(樋口勝彦訳1961『物の本質について』)

と、筑摩書房版(藤沢令夫、岩田儀一訳1965「事物の本性についてー宇宙論」『世界古典文学全集21』

 

 私がずっと気になっていたのは、「板倉版は全訳だろうか」ということです。子ども向けということもあるし、何となく「短い」気がするのです。そこで問題です。

 

[問題]

 「宇宙をつくるものアトム」は、ルクレティウスの本の全訳でしょうか。

ア.  部分訳

イ.  全訳

 1- ほぼ全部をそのまま訳してある。

 2- 全体を訳しているが、抜けている部分がたくさんある。

 

板倉さん自身はこう書いています。

 

なにしろルクレチウスの本は2000年もむかしに書かれたもので、かなり長くもあり、一般の人々にその原文の字句を忠実に訳したものをすすめるのはどうかと思われます。そこで、ルクレチウスのもっとも強くいわんとしていた精神のなかみを現代の日本人にもっとも強くうったえるような形で、大幅に意訳することが必要だと考えました。(「解説」より)

 

筑摩書房版によると、ルクレティウスの本は全6巻からなっています。

 1. 物質と空間

 2. アトムの運動と形

   3. 生命と精神

   4. 感覚と恋愛

 5. 世界と社会

 6. 気象と地質

 

板倉版は、1巻と2巻のほぼすべてを割愛しながら意訳しながら訳したものです。つまり、

「原子論そのものを論じた部分」を訳してあるのです。3巻以降の具体例は、全く訳してありません。

 ただ5巻にある哲学部分は、最後にまとめて6ページ分にしてあります。