1集団免疫は、いつ成立するか。
1集団免疫の成立は50%? 60%??
コロナウイルスによる感染症が広がっている。ある人は「感染は集団免疫が成立するまで続く」と言う。本当だろうか。
私は、「集団免疫」と言うと、「増え鬼」という鬼ごっこを思い出す。「鬼」がどんどん増えて、つかまえられる人はいなくなる。
感染症の場合も同じである。下の図で「1人が2人に感染させる」とするなら、「50%の人が免疫を持つ」と、もう感染は止まることになる。
コロナウイルスの場合、「集団免疫」が成立するのだろうか。それは、どのくらいの人が免疫を持つと成立するのだろうか。
2 「 たぶんよくて20%だ」
一般的には「コロナウイルスの場合、流行を止めるには60%の人が免疫を保持すること」と言われている。
宮坂昌之さん(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)はそれに異議を唱える。「(集団免疫は)たぶんよくて20%だ」と(宮坂さんは16.7%という数字を出す)。
その理由は、自然免疫が働くからである。コロナの場合、かなりの人が、感染しても無症状で、免疫ができる前に治ってしまう。その人の分を差し引くと「多くて20%」という数字が出てくるのだ。
▶️一般に信じられている集団免疫理論はどこがおかしいのか免疫の宮坂先生に尋ねてみました(上)「yahooニュース」2020.5.16木村正人執筆
3 ニューヨーク市は20%を越えた
右のようなデータがあった。
▶️http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/07/10/2020071080106.html 2020.8.16閲覧
抗体保有率の高いところをあげてみる。
⚫︎ニューヨーク市(4月23日) 21.2% (1300人対象)
⚫︎ニューヨーク州全体(4月23日) 13.9% (3000人対象)
⚫︎モスクワ市(6月) 17.4% (16万5000人)
⚫︎ロンドン市 17%
⚫︎ストックホルム市 ロンドンと同等程度
次のサイトの数値も加えた。
▶️NNA EUROPE https://europe.nna.jp/news/show/2080941 2020.8.14(8.16閲覧)
4 20%を越えた地域は、集団免疫が成立したか
左のグラフは、ニューヨーク州の「新規(確認された)感染者数」のグラフだ。PCR検査をして陽性だった人の数である。
グラフは4月上旬にはすでにピークを迎えている。「集団免疫が成立した」と言えないだろうか。「確認された感染者数」の合計は、20万人ほど(4/15)なので、人口(2000万人)の1%ほどである(抗体保有率の1/10)。8月には40万人を越え、それは人口の2%になっている。[グラフ1]
5 「感染者累計数が2%を越えたら集団免疫は成立する」という仮説を立てる。
「感染者累計数」は、世界中の国々のデータが毎日得られる。それが2%を越えたら「集団免疫」が成立する。その仮説を、右図に示す。
つまり「20%の陽性率で成立」といっても、すべての人々がPCR検査を受けるわけではない。その「1/10(2%)が新規感染者となる」という仮説を立てたのだ(1%でもいいのだが、少し高めに見積もった)。
さて、その仮説は現実に成立しているだろうか、見てみよう。
右のグラフ[グラフ2]は、感染者の多く国の中から7国を選んで「人口あたりの感染者数(PCR検査で新規に陽性になった人)」をグラフにしたものである。(『worldometer coronavirus Update』のデータより筆者作成)
これを見ると、すでに2%を越えている国は、次の3国である。
チリ、アメリカ、ブラジル
その3国の「新規感染者」はどうなっているだろうか。
これを見ると、どれもピークアウトして(ピークを迎えて)いるように見える。チリの場合は6月12日がピークで、2か月たった8月でも1日に2000人の新規感染者数が出ている。アメリカ(7月22日)やブラジル(7月30日)もピークを過ぎたが、8月になっても5000人を越える新規感染者数である。[グラフ3]
ピークアウト後は、新規感染者数は減少し続けるだろうか。
6 100年前のスペイン風邪の場合
右のグラフは、100年前のスペイン風邪のイギリス死者数を表したものだ。グラフは2か月でピークアウト(11月)した。チリやブラジルのグラフのようである。その後2か月かかって「ほぼゼロ」になっていったのも、チリに似ている。
ただ翌年3月に小さいピークが再び訪れている。[グラフ4]
こちらは同じく時期(スペイン風邪)の日本の患者数のグラフである。ほぼ同じ10月頃ピークアウトを迎え。第2波も同じように起きている。
スペイン風邪は、インフルエンザウイルスによって、コロナパンデミックはコロナウイルスによって起こった。2つは、ともにRNAウイルスで、よく似ている。流行も同じような経緯をたどるに違いない。[グラフ5]
それでは、本当にチリ、アメリカ、ブラジルなど、いくつかの国々は、8月以降は新規感染者数が減少し続けるだろうか。
7 ほとんどの国は行動規制をしている
右の表は、日本の感染症に対する基本方針を表している。「できるだけ感染を抑えて、薬やワクチンができるのを待つ」というものだ。[グラフ6]
多くの国は「行動制限」が効果をあげ、それなりに感染を抑えている。
右のグラフは「行動制限」のモデルである。20%しか行動しない(80%の制限)なら、赤ラインのように急激に減少する。
青ラインは何も制限をしない場合だが、それでも「集団免疫」に至ればグラフは減少に転じる。[グラフ7]
8 日本のグラフはどうなるか
日本は、今後どうなるだろうか。右に、日本の「新規感染者数(新しく確認された患者数)」の推移を表した[グラフ8]。
「行動制限」をしていても、気持ちがゆるめば、上の[グラフ7]の青ラインに戻ってしまう(ア)。
横ばいで行くのだろうか(イ)。グラフの形からすると(ウ)になるかもしれない。いずれにしても、冬をいかに乗り越えるかが、我々日本人の課題であろう。
9 世界はどうなるか
世界のグラフは、横ばいになっている。
もう世界中の感染者は、増えることはないのだろうか。
そうとも言えない。
次のグラフ[グラフ9]を見てほしい。
大陸別に見ると「アジア」は新規患者数が増加中である。特に、インドやインドネシアの増加は著しい。行動制限をしているにも関わらず増え続けている。かといって、集団免疫が成立するほど(人口5%)の割合にはほど遠い。
世界全体で、コロナのパンデミックが収まるためには、アジア諸国の増加が止まることが必須だ。それはいつになるのだろう。やはりワクチンがそれらの国の人々に届いたときだろうか。
10 アメリカ大統領選挙はどうなるか
もう一度、アメリカのグラフを見てみよう。
アメリカは7月末に「集団免疫」を迎えたように見える。
今後、どうなるだろう。パンデミックは、11月3日の大統領選にはどうなっているだろうか。これからのグラフの動きに注目していきたい。