「ーどういうとき2つのクラスは異質といえるかー」『たのしい授業』1991.1月号
2022.11.23 原作:板倉聖宣(編集:猪塚憲機、井藤伸比古)
〈自由電子が見えたなら〉西川浩司学級 (板倉,井藤著『電気のとおり道 いたずら博士の科学だいすき1 』2013.4.1小峰書店より
学校で授業について2人の先生が議論しています。
(いたお君)
理科は授業書をやりましょう。だって「この授業書に対する反応は、日本中どのクラスでもほぼ同じで、クラスによってそんな違わないんです」
(かおるさん)
そんなのおかしい。クラスは1つとして同じではない。一人一人の反応を見ながら、授業をしないとダメ。そんな授業書なんて型にはまった方法なんて考えられない。
みなさんは2人の意見のどちらに賛成ですか。
ア. いたお君 イ. かおるさん
かおるさんはさらに続けます。
(かおるさん) だって、クラスの男女差をみてごらんよ。
男/女
1年生 20人/20人 2年生 21人/19人 3年生 24人/16人
ばらばらでしょう!! 1クラスごとに違うんだよ。
「20人/20人、21人/19人、24人/16人は、同じとみていいんだよ」
「ちょっと数学の確率で説明してみるけど、ついてこれるかな」
右のようにたくさんの人がいたとします。その数は
4000000000000000000000000000000000000人
これは多すぎて書けないので[40T人] とします。
[4OT人]は、だいたい男女半分ずつだから
男 [20T人] 女 [20T人]
その男 [20T人] から25人、女 [20T人] から15人選ぶとすると
数学の組み合わせの記号[ C ]を使うと
20TC25 × 20TC15 となります。
男女同数の40T 人の中から男25人、女15人が選ばれる確率は
[ 40Takusannin ] → [ 40T ]
←詳しい数学の話を知りたいですか
ア. 特に知りたくない
↓ イ. ぜひ知りたい
↓ →説明! 聞いて!!
★にすすもう
他の場合も計算すると
正答 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
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24 |
25 |
26 |
27 |
28 |
29 |
30 |
% |
0.1 |
0.2 |
0.5 |
1.1 |
2.1 |
3.7 |
5.7 |
8.1 |
10.3 |
11.9 |
12.5 |
11.9 |
10.3 |
8.1 |
5.7 |
3.7 |
2.1 |
1.1 |
0.5 |
0.2 |
0.1 |
これをグラフに描くと下のようになります。
つまり「男女40人のクラス」は、「男10人〜30人まで」は統計的に「ふつうにあらわれる」ということです。
他の場合も加えて、まとめてグラフに描くと下のようになります。
これを見ると、1列目、2列目、それぞれ選択肢を作れば、0~100%をカバーできます。
(6)0〜25% (4)25%〜75% (2)75%〜100%
(7)0~10% (5)10~50% (3)50~90% (1) 90-100%
(ここからは井藤)
右は「子のつく女性名」を誕生年別にグラフにしたものです。4万人ほどの名前の集計です。
1960(昭和35)年を見ると「子のつく名前」は女性の50%です。
もし1960年の女性が40人集まったら、[子のつく名前の女性]の割合は、
「25%(10人)から75%(30人)の間に入る」ことになります。
「1960年生まれの女性の名前50%に[子]がついている、としたら
それはどうしてでしょう。数学的モデルで考えてみました。
1人1人の親の[心]に、「[子をつける50%/子をつけない50%]があった」
と考えたらどうでしょう。
同様に「1円玉は電気を通すか」という問題でも
1人1人の[心]に、「[つく○%/つかない○%]があった」
のではないでしょうか。だから、どこでその問題を出しても、予想の割合が同じようになる。
いかがでしょう。
いくつか問題を考えてみました。いかがでしょう。
[問題1]
現在、日本人の高齢化率(65才以上の人の割合)は、どのくらいでしょう。
(6)0〜25% (4)25%〜75% (2)75%〜100%
[問題2}
日本人の1回目のワクチン接種率(全国民のうちワクチンを打った人の割合)はどのくらいでしょう。
(7)0~10% (5)10~50% (3)50~90% (1) 90-100%
[問題3] 板倉(1983)『禁酒法と民主主義』p.39より
禁酒法実施後、アメリカでは酒を飲む人の数や、飲む量はどのくらい減ったと思いますか(前と比べて)
ア. 0〜10%
イ. 10〜50%
ウ. 50%以上
[問題4]
1945年生まれの女性は、80%に名前に[子]がついています。これは全国的なことです。
沖縄ではどうでしょう。
ア. 全国平均と同じ80%
イ. 80%より高い(90%くらい)
ウ. 80%より低い(70%くらい)
答え
[問題1] 高齢化率は、 2022年は29.1% ⏩総務省統計局
[問題2] 第1回目のワクチン接種率は、 2022年11月21日現在 77.69% ⏩デジタル庁
[問題3]禁酒法で飲む量は減ったか 「よくわからない、おそらく[ア]ということにはならない」
[問題4]1945年生まれの沖縄女性の名前には、90%に[子]がついています。
それは「母集団が違う」ということです。
「母集団が違う」ということについて、板倉さんは次のように言っています。
「実際の母集団は、日本全国一定ということはありえないこと」
「多くのクラスの予想分布がだいたい〈7段階分布法則〉の枠に入るということは、日本全国の母集団がそれほど違わないということを示している」
「あるクラスだけは[はみだす]というような場合は、[偶然]というよりも「そのクラスは異質だ]と判断した方がいいわけです」 [板倉(1991)116ぺ]
この板倉論文の副題が「どういうとき2つのクラスは異質といえるか」とあるのは、上のような理由があるからです。
選択肢は、板倉さんはどんなことを考えて作っているでしょうか。下は、板倉『世界の国旗』(仮説社1990)の最初の問題です。
[問題0] 現在、世界の国旗ーーつまり国の数は、いくつぐらいあるでしょう。
さて板倉さんは、選択肢の[予想]を下のどちらにしたでしょう。
(A)
ア. 50くらい。
イ. 100くらい。
ウ. 200くらい。
エ. 400くらい。
↑
ア(2倍) イ(2倍)ウ(2倍)エ
(B)
ア. 100くらい。
イ. 200くらい。
ウ. 300くらい。
エ. 400くらい。
↑
ア(+100)イ(+100) ウ(+100)エ
(C)
ア. 156国
イ. 176国
ウ. 196国
エ. 206国
↑
テレビのクイズ番組でよく見られる
正解は(A)です。選択肢の4つの差は「量」ではなく「質」なのです。